トンカチで叩いてもデータは消えない。Windows 95を知る世代として、事務器屋の私が今、危惧すること
私が会社員だっただいぶ昔、Windows 95が世の中に出た頃のお話です。1988年頃から1995年までは、DTPの先陣を切って走っていましたMacintoshを、私はそれなりに触っていました。プリンターの修理やメンテナンスを行いながら、Macのフォント設定などを現場でこなしていました。
やがてWindows 95が登場し、「ログインパスワード」という概念が広く世の中に普及しました。当時、基本的にお客様には「ログインパスワードを忘れてしまったら二度とログインできません。諦めて初期化してください」と説明するように教わっていました。
しかし、私たちサービスマンの間では、Windows 95のパスワードは簡単に回避できることや、容易に入手できた解析ソフトでパスワードを平文で見ることができることは知っていました。
保守をする人間にとっては当たり前の知識だったのに、世間一般には「パスワードがないと絶対にダメだ」という流れが作られていたのです。
この「専門家と一般層の知識の壁」は、形を変えて今も存在しています。
例えば、パソコンを廃棄する時のデータ消去です。今はほとんどのパソコンにSSDが搭載されていますが、一般的なフォーマットや初期化ではデータが復元できる形で残ってしまうことをご存じない方が大勢いらっしゃいます。
昔のハードディスク(HDD)なら、ドリルで穴を開けたりトンカチで叩き割ったりする物理破壊がある程度有効でした。しかし、SSDは小さなメモリチップの集合体です。基盤を折ったり穴を開けたりしても、無傷なチップが一つでも残っていれば、そこからデータを読み取られてしまう危険性があるのです。
そうしたセキュリティの恐ろしい壁があるにもかかわらず、なかなか世間には一般化されません。「昔と同じように壊せば大丈夫だろう」という思い込みが、今もまかり通っています。
そこに、私たちのような現場の人間が果たすべき、新しい役割があるのではないかと考えたのです。
東京・練馬で、お客様との信用を第一に商売をしている事務器屋として、この「不都合な真実」は伝えなければなりません。しかし、ただ「叩いてもダメです」と脅すだけでは無責任です。現場の人間として、正しく安心できる「現実的な解決策」までお伝えしてこそプロです。
例えば、Windowsであれば、あらかじめBitLockerでドライブを暗号化しておき、破棄時にその「鍵」を無効化するか、専用の消去コマンドを実行すること。または最低限、「データーのクリーニングを実行する」を行なってもらいます。Macであれば、近年のモデルは自動で暗号化されているため、OS標準の「すべてのコンテンツと設定を消去」を実行すること。
これらを行えば、物理的に壊さなくてもデータは暗号の闇の中に消え、二度と復元できなくなります。
「暗号学的消去が・・・」などと難しい専門用語を並べ立てても、忙しい経営者には響きません。彼らが求めているのは技術論ではなく、「結局、どうすれば安全なのか」という安心感だからです。
私が長年現場で培ってきた「一次情報(事実)」をAIに渡し 、お客様が直感的に腹落ちするような「分かりやすい言葉」に翻訳してもらう 。 「昔の常識は、今の非常識です。トンカチではなく、正しく鍵を消しましょう」というメッセージを、どうすれば角を立てずに伝えられるか。それを優秀なAI助手に相談しながら届けていけばいいのです。
見えないセキュリティの壁を壊すのは、物理的なトンカチではありません。 事実を知る現場人間の「危機感」と、AIの「翻訳力」を掛け合わせた、新しい伝え方なのだと思っています。
