【蒼き航跡】橿原の杜に眠る「瑞鶴」の記憶6
第6回(最終回):魂の還る場所 大和三山に抱かれて
【登場人物】
はっつあん:涙でボロボロになりながらも、最後の一言を聞き漏らすまいとする。
クマさん:静かに、祈るような声で最後の真実を解き明かす。
ナオちゃん:店の暖簾を片付けながら、そっと二人の会話を見守る。
はっつあん「……クマさん。もう隠さないで教えてください。なんで瑞鶴は、沈む瞬間にあの森を……橿原を向いたんすか。なんであんな山の中に、彼女の居場所があるんすか……っ」
クマさん「……いいかい、はっつあん。瑞鶴ってのはな、ただの名前じゃねえんだ。この国が始まったとき、神武天皇を勝利に導いた『金のトビ』……その瑞兆を象徴する名前なんだよ」
はっつあん「国の始まり……? それが、橿原神宮……」
クマさん「そうだ。橿原神宮の背後にはな、畝傍山(うねびやま)がそびえ、周りには耳成山(みみなしやま)、天香久山(あめのかぐやま)……いわゆる『大和三山』が、まるでゆりかごみたいにその地を抱きかかえてる」
はっつあん「ゆりかご……」
クマさん「あの日、エンガノ岬沖で沈みゆく瑞鶴の甲板にいた男たちはな、自分たちの命がもうすぐ消えるって分かったとき、一番温かい場所を思い出したのさ。それは軍の司令部でも、派手な都会でもねえ。自分たちの船の名前が生まれた、日本の心のふるさと……大和三山に抱かれた、あの静かな森だったんだよ」
はっつあん「……だから、北西を向いて万歳を。あそこに、魂を帰そうとしたんすね」
クマさん「ああ。形ある船は南の海に沈んだ。だがな、乗組員たちの祈りが、瑞鶴の魂をあの橿原の森まで運び届けたんだ。海も波もないけれど、そこには畝傍山がいて、優しい風が吹いている。あそこは、戦いを終えた彼女がようやく翼を休めることができた、最高の『母港』なんだよ」
ナオちゃん「……だから、今でもそこに行くと、そんな優しい気持ちになれるんだね」
はっつあん「(涙を拭いながら)……僕、また行きます。今度は興味本位じゃなくて、ただ『おかえり』って言いに。あの大和三山に抱かれて眠ってる彼女に……会いに行きます」
クマさん「……そうか。それが一番の供養だ。瑞鶴も、きっと笑って迎えてくれるさ。……大将、最後の一杯。この国と、あの美しい鶴に……乾杯だ」
はっつあん「……乾杯。……ありがとう、クマさん」

全6回にわたってお届けしてきた【蒼き航跡】、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
戦火の中を駆け抜けた瑞鶴が、最後に求めたのは勝利でも名誉でもなく、自分という名前が生まれた「原点」……大和三山に抱かれた、あの静かな杜だったのかもしれない。そんな想いを込めて、この物語を締めくくりました。
形あるものはいつか消えても、誰かの祈りや記憶がある限り、魂が還る場所は必ずある。 もしあなたが奈良の橿原を訪れることがあれば、ぜひ畝傍山からの風を感じてみてください。 そこには今も、戦いを終えた美しい鶴が、翼を休めて眠っているはずですから。
これまでの温かい応援、本当に感謝です! また次の投稿でお会いしましょう。
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