神様の向こう側(第12話)
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沙希のバイクの納車日は、見事なまでの快晴になった。
青空の真ん中で、太陽が祝うように輝いている。和也は、バイクを受け取りに行く沙希を店まで連れていくために、待ち合わせ場所の公園に向かった。
「わぁ!Vストローム!」
車ではなく、バイクで迎えに来た和也を見て、沙希が心底嬉しそうに笑う。
「私、後ろに乗ってもいいんですか?」
「もちろん。久しぶりにバイクで走る前に、タンデムで感覚を取り戻したほうがいいと思って」
「嬉しい!いきなりバイクに乗るの、実は少し不安だったんですよね」
内心、嫌がるのではないかと不安だった和也は、沙希の素直な反応に安堵する。実際のところ、彼は彼女を後ろに乗せることで、バイク特有のバランス感覚を思い出してほしかった。
「タンデムの乗り方、分かるよね?」
「大丈夫です。左手だけ、腰のところにつかまっていいですか?」
「いいよ」
和也のバイクは、シートの後ろに金属のバーが1本、平行についている。タンデムバーと呼ばれる、後ろに乗った人がつかまるためのバーだ。沙紀は和也の後ろに乗ると、右手でタンデムバーを、左手で和也のライダースジャケットをつかんだ。
「じゃあ、行くよ」
「はい、お願いします」
宝物を乗せているような気持ちで、和也はいつもより丁寧にバイクを走らせた。拓やちえみを乗せたときも、同じように気を遣ったはずなのに、そのときには感じなかった緊張がある。
京香が突然、この世からいなくなってしまったときは、大袈裟ではなく世界が暗くなった。太陽も満月も、そこから放たれる明るいはずの光も、和也の視界には半分しか届かなかった。
しかし1年、2年と時が流れるうちに、太陽は眩しさを、月は明るさを少しずつ取り戻した。和也の顔を見るたびに泣いていたちえみが笑うようになり、一時的に声が出なくなった拓も口数が増えて。それは同時に、京香がもういないことを受け入れたという悲しい証拠だった。
もしかしたら、他人には冷たく聞こえるかもしれない。でも、京香は確かに神様の向こう側へ行ってしまった。そして和也は今、沙希をタンデムシートに乗せている。片思いだろうが、年の差があろうが、もう否定できない思い。
誰がなんと言おうと、俺は彼女が好きだ。
沙希が上手に力を抜いた、バイクに負担をかけない乗り方をしたおかげで、店までのタンデムはとても順調だった。たった15分だけれど。
「すごく楽しかったです!」
ヘルメットを脱いだ沙希が、これまでで一番の笑顔を向ける。
「バイクに乗ったときの、上半身の力の抜き方をずっと忘れてたんです。でも、有沢さんの後ろに乗ってたら、なんとなく思い出した気がして」
「それなら良かったよ」
和也はヘルメットを脱ぎ、小さく頭を振った。もしも今、自分が何も言わなければ、もう会えなくなるかもしれない。沙希が納車になったバイクに乗って、何の約束もなく帰ってしまえばそれで終わりだ。彼女はもう、みちなり食堂でアルバイトをしているわけではないのだから。
「島原さん」
驚いた様子もなく、沙希が和也を見る。
「あの、さ」
数秒で言える一言。
「スーフォアの鍵をもらったら、その……このまま、一緒にツーリングに行かない?」
ようやく口にした和也の言葉に、沙希が少しだけ真顔になる。
……そして。
「私も、同じことを言おうと思ってたんです」
彼女は和也にそう答えると、大輪の花が咲くように笑った。
