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連載小説|不器用たちのやさしい風〔Part2〕

※Part1~14でひとつの物語になります※
Part1はこちら

 桜の花の中心が赤くなり、少しづつ散り始めた週末。達也が独りで暮らすアパートに、妹の香代子がやってきた。
「お兄ちゃんって、意外と家の中、きれいにしてるよね」
「こんな狭いアパートだぞ、掃除なんて簡単だよ」
 玄関を開けると、四畳程度の簡素なキッチンがあり、その奥に八畳の洋間がひと部屋。あとは、トイレと狭い浴室だけの、ささやかな城だ。
 洋間の中央に敷かれた、グレーのラグに直座りして、香代子は持って来た紙袋の中身を、テーブルに出し始めた。緑茶のペットボトルが二本と、コンビニのシュークリームがふたつ。
「おっ、美味そう。濃厚カスタードシューだって」
「こういうの、お兄ちゃん好きでしょ」
 達也も香代子の向かいに座り、兄妹は同時に、シュークリームにかじりついた。美味いな、美味しいね、という、子供の頃のようなおやつの風景。
 彼等には、達也の上にもうひとり、東京郊外の実家のそばで、一家を構えた兄がいる。この長兄と両親は、達也が同性しか愛せない、という事実を、どうしても受け入れることができなかった。
 けれど、家族でただひとり、香代子だけは、そのことをごく自然に、すんなりと飲み込むことができたのだ。
「豊さんは、休日出勤?」
「そうなの。旦那は休日出勤、息子は部活じゃ、家にいてもつまんないから、お兄ちゃんの顔見に来ちゃった」
 香代子は昨年、恋人を失って途方に暮れる次兄を、自分が暮らす、茨城北部のこの街に呼んだ。ひとりぼっちなら、私の近くに来たらいいじゃない。その言葉がなかったら、今頃、達也はどんな生活をしていたのだろう。
 こうして話す相手がいるだけ、俺はまだ幸せか。シュークリームにかじりつく香代子の、自分に似た二重まぶたをぼんやり眺めながら、達也はそんなことを思った。

 達也って、料理は全然できないけど、掃除は上手いよね。
 ふたりで暮らしていた頃、掃除が終わった部屋の中を見て、よくリュウはそう言ったものだ。
「掃除なんて簡単だろ、ホコリを払って、掃除機かけて、時々床を拭けばいいんだから」
「でも、達也がやると、手早いのに、すごくきれいになるんだよ。俺だと時間がかかるのに、隅っこに髪の毛が残ったりしてさ」
 達也が掃除をして、リュウは料理を作り、その他の家事は、それぞれが柔軟に対応。できるほうがやればいい、得意なほうがやればいい。
 そんなふうに、助け合いながら暮らした温かい四年間が、確かに達也にはあった。最初から、終わりがあるとわかっていた、期限付きの幸福。
 リュウは今、元気なのだろうか。運転中の信号待ち、電気ケトルのお湯を沸かしている間など、時間の隙間が来るたびに、達也はそればかり考えている。

〔Part3へ続く〕


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