[詩75]食べられている
ええ、ええ
見てのとおりでございます
わたくしは現在
食べられている真っ最中
そう
食べられているのでございます
ごらんください
わたくしは今
下半身をぱっくりと
この醜くて
不細工で
いびつで
不格好で
イボイボだらけで
吹き出物だらけで
吹き出物から血が出ていて
血の色は紫色で
悪臭を放っていて
目はぼんやりとしていて
カエルのような
ナメクジのような
ワニのような
ハイエナのような
この気色悪くて
見るものすべてが怖気を振るう
まさにその生き物に
食べられている真っ最中なのです
いやはや
完全に油断していました
わたくしは先日
たった一人の娘が結婚し
幸せと寂しさを味わっていて
まあ、俺の人生も悪くはない
むしろけっこう恵まれていると
そんなことをしみじみ感じていたのですが
この生き物がそういうしみじみとした感情
こういうしみじみとした感情を察知して
ぱっくりと飲み込んでくるという
そういう習性があるのをわたくしも
すっかり忘れていたのです
しみじみとした気持ちを抱いて
ちょっと散歩に出たところ
地面からこいつがいきなり飛び出してきて
逃げ出したわたくしを背後からぱくりと
まあそういうわけでございます
痛みは特にありません
圧迫感も
不快感もありません
幸いとも言うべきか
わたくしの下半身は
もはや感覚がありません
聞いたところによるとこの生き物は
獲物を長い時間をかけてゆっくりと
生きたまま消化するのだとか
獲物が生きたまま
完全に意識を保ったまま
明瞭な思考能力と
乱れのない時間感覚を持ったまま
気の遠くなるほど長い時間を
それこそ数千年
数万年かけて
ゆっくりゆっくり消化する
そのようにわたくしは聞いています
ああ、およしなさい
おやめになってください
わたくしを助けようとしても
それは無駄というものです
この生き物は見た目のとおり
実に頑固で
意地汚く
貪欲で
執念深く
絶対に獲物は手放さない
あなたが鉄パイプで殴ろうが
ガストーチで炙ろうが
爆薬を仕掛けようが
決してわたくしをはなそうとはしないでしょう
こうなってしまったからには
わたくしにはもう
大人しく食われる以外に
道はないのです
ああ、ああ
そのような顔をなさらないで
あなたが悲しむ必要はないのです
わたくしは獲物であり
この生き物は
まあ認めたくはありませんが
捕食者です
あなたも学校で教わったでしょう
食物連鎖というものがあり
食うものと
食われるものがあるということは
わたくしはいわばウサギで
この生き物はいわばワシです
あなたはワシがウサギを狩ったら
どう思いますか
ウサギが可哀想だと思いますか
可哀想だと思うでしょうが
まさかワシからウサギを取り上げるなど
そのようなことはなさいますまい
ですからわたくしのことを悲しんで
わたくしを助けようとしてはなりません
これはこの世の仕組み
この世のことわり
この世の成り行きというものです
わたくしはこれから長い時間をかけて
この生き物に食べられていきますが
それは川が山を削り
谷が埋まり
海が干上がって
大陸が移動するのと
まったく同じだということです
むしろわたくしはこのように
この生き物に食べられ始めた今となって
実はこのわたくしは世界の一部で
世界はわたくしを愛しているのだと
そういうことが分かりました
ええ、そうですとも
わたくしは世界から愛されています
わたくしは幸せです
この幸せを抱いたまま
わたくしは消化されていきます
この幸せが消えることはないでしょう
なにせこの生き物は
獲物が生きたまま
完全に意識を保ったまま
明瞭な思考能力と
乱れのない時間感覚を持ったまま
消化していくのですからね
