見出し画像

第8回古賀コン参加作品「天才”未満”たち(?)」

第8回 私立古賀裕人文学祭テーマ 「孤高の天才未満」

『天才”未満”たち(?)』

「久しぶりだな、一郎」
「よっ! 久しぶり!」
 賑わうファミレスで男二人が向き合って座った。あとから来た男は店員を呼び止め、コーヒーを注文した。二人は高校時代の同級生だ。
「いま転職して漫画の編集やってんだっけ? 他人の原稿管理とかよくやってられるな~! 俺なんて自分の予定で手いっぱいだ」
「おいおい、編集の仕事ってのは別にセンセイ方の原稿周りのことだけじゃないからな。こう見えていろいろあるんだよ」
 後から来た男は一郎をギロリと睨みつけ釘を刺す。
「けどさ! 自分が見つけた若手が売れっ子になったりしたらやっぱ充実感というか、優越感的なものはあるだろ?」
「なあ、オレが言ったこと、聞いてたか? 作家に関わるだけが仕事じゃ…」
「才能発掘といえば、俺って昔はよくいろんな人の秘密を打ち明けてもらうことが多かったんだよな、なんでかわかんないけど」
「…お前は昔から人懐こいからなあ」
 目の前の男の口が止らないことを悟った男は、ギシリと背もたれに背を預け、一郎に好きなだけしゃべらせてやることにした。
 もしかしたらなにかネタの一つでも手土産に出来るかもしれない、という下心もあった。

「一番最初はなんだったかな。 ああ、そうそう、幼稚園の頃だ。 ロカちゃんって女の子が居てさ、その日はたまたま俺とロカちゃんが最後まで教室で親待ってたのよ。 えーっと、あ、違う。 ロカちゃんは隣のクラスだったかな。 迎えを待ってたら聴いたことのないピアノの音色が聴こえてきたから行ってみたわけ。 そしたらロカちゃんがさ、ちっちゃい手でピアノ弾いててさ。 本当は先生以外触っちゃいけなかったから、ロカちゃんは先生が教室から居なくなった隙に弾いてたんだよ。 で、ここまでは別段めずらしくないことだろ?」
「そうだな」といって男はアイスコーヒーをすする。
「俺は思わずかけよって、”すっごく上手だね!”って褒めたわけ。 で、ロカちゃんはもじもじしながら”弾いてたの内緒にしてね”って真っ赤になりながら言ってさ。 もしかしたらそれが初恋だったかもしれない」
「……話は終わったか?」
「いやいやいや、ここから、ここからがすげーの。 俺が「それっていま練習してるお歌だよね」って言ったら「先生が弾いてるの見て覚えたの」って言うのよ。 「ピアノの先生に習ってるんだ」って返したら首ふって、「ここで先生が弾いてるのを見て、マネっ子しただけ」って」
「……ん? 横に並んで眺めてただけで覚えたってことか?」
「いや、後ろ姿と耳で聞いてただけっぽい。 俺の記憶違いじゃなきゃそういうことになる」
 こういう配置で園児と先生って歌の練習してたはずーと言って、一郎は結露したコップの水滴を指で引っ張り、簡単な配置図をテーブルに書いて見せた。
「ピアノの配置的にそもそも園児が横には立たない感じだったのよ」
「バケモンじゃねーか。 創作でも批判出るぞ、そんな出木杉設定」
「さらにすげーのがさ、その子の家、ピアノ習うどころかピアノそのものが無い家らしくてさ、結局だれもロカちゃんに恐ろしい音楽の才があったことを知らずに終わったことヨ。 ロカちゃんがその後音楽に関わることなく短大卒業して二児の母になってることは、俺の父親から確認済み」
 ロカちゃんの親とうちの親って同僚だったんだよね~と、一郎は話し終わるとオレンジジュースをストローで吸い上げた。
「うわぁ……」
 なんとも言えない、絶望感とも喪失感ともつかない、ヒヤリとしたものが内臓をスウと通って体の下へと落ちる感覚を感じた。
「あとはー、小学生のことのダチにハルキって奴がいたんだけど、そいつは親が共働きでほとんど家にいなくてさ、ほとんどハルキが飯を作ってて、俺はハルキの腕前知ってたから遊びに行った時、おやつ代わりにハルキの家の残りモン食いながら一緒にモンハンやってたわけ」
「いや同級生に残り物だすなよ」
「俺が食いたいって言ったから。 口付けた箸は付けてないから大丈夫だよって言ってたし!」
(それはお前が食いたいっていうからわざわざ残してくれてたんじゃないか
?)
 と言いかけて、コーヒーで流した。また話を中断しても得るものはない。
「ほんでー、俺は何度か通ってるうちにシチューの人参だとか、サラダのきゅうりだとかに綺麗に模様が入ってたり可愛い形に切りそろえられてることに気が付いてさー、”ハルキは器用だなー”ってなんとなく言ったのよ。 ハルキはデレっとした顔で”このくらい毎日やってりゃできるよ。煮物仕込んでる時に手持無沙汰でやってみてるだけ”とか言ってさ。 で、俺は”そういうもんかー”って思ってたんだわ」
「うんうん」
 男はちゃっかり頼んだパンケーキを口に含みつつ、適当に相槌を打った。もっと要点をまとめてサクサク話してほしい物なのだが、別にしゃべり屋でもないこの男にそんなものを求めても仕方ない。
「けど、ハルキは5年の終わりに親の転勤が決まってさー、引っ越しちゃったんだよね。 そん時にハルキがさ、俺のために得意の飾り包丁さばき?で作ってくれたのが、これ」
 一郎は勿体ぶるようにテーブルを念入りに紙ナプキンで拭くと、定期入れから少しよれた1枚の写真をスーッと男の前に差しだした。
「ごふっっっ」
 男の喉にパンケーキが詰まる。
「すげーだろ~。 主にきゅうりと人参でできてるんだぜこれ」
 写真の中には先ほどチラリと出てきたゲームの中に出てくる火竜のつがいが、鮮やかな赤と緑の再現度そのままに、なんと野菜のみで立体的に存在していた。
「”さすがにこれだけ食材使ったのがバレたら親に叱られるからさー”って親たちが転勤準備で家空けてるうちに作って見せてくれたんだよな~。 何日かかったんだろ」
 子供のように顔をくしゃくしゃにして、一郎は宝物を定期入れに戻した。
「はー、それじゃあ今はさぞ名の売れた料理人になってることだろうなー」
「いや、漫画家になりたかったけどうまくいかなくてイラストレーターしてる」
「いやおいおいおい、そっちの才能を世に出さないともったいないだろ! なんでお前は本人を説得しないんだよ!」
「え? だって本人が”手を怪我して絵を描けなくなると困る”つって包丁持ちたがらなくなったんだよ。 奥さんも料理好きでいまは台所譲りっぱなしだって話だし」
 キョトンとした顔で一郎は答える。
「でも漫画といえばやっぱ、俺の中ではニートが一番だったなー。 中学のとき不登校でさーたまたま通り道だったからって理由で俺がプリント届ける係にされたんだけどさー、たまたまひら~っと漫画の1ページが俺の頭上から落ちてきてさ……」
「最近そんなアニメ映画なかったか?」
「たった1ページだったのに、キャラデザ、画面の構成力、セリフのセンスに心を鷲掴みにされちまった俺は、思わずニートの家に強引にあがって奴の部屋の扉に向かって続きを見せてくれって叫んじゃってさ。 その日は真っ青な顔で親御さんに追い返されちゃったんだけどさ。 いやー、あれは申し訳なかった」
「……なんで”ニート”なんだ?」
「ん? 学校サボってたからあだ名がついてたんだよ。 本名は忘れちった」
「ひでえな、いろいろ」
「で、次のプリントを届けに行ったとき、ニートのお母さんが封筒を渡してくれてさぁ、中見たら漫画のコピーが入っててさ。 俺、嬉しくって、無我夢中で読んじゃって。 次の日に感想書いてニートの家のポストに入れたんよ」
「ほう、それは感心」
 作家のモチベーションに一番効く方法だ。
「それからニートは新作が描きあがるたびに母親づてに俺に漫画をくれて。 ニートのすげぇところって、構成力とか画力とかもそうなんだけど、作風の幅が広くて、絵柄もテーマごとに微妙に変化させられるところだったんだよな。 俺はさすがにニートに手紙で「漫画家になった方がいい」って書いたんだけど、新作マンガと一緒に着た返事には「自分みたいな器用貧乏な作家は、編集業界に言いように使われて無名のまま消えるのがオチ」って返ってきた」
 男は非常に冷たい目で一郎を見ている。
「あ、いやいや、まさかお前がそういう悪徳編集と同じだなんて思ってねえよ! ただ、今度は俺が引っ越すことになっちゃたんだよな~。 ニートのやつ、いまどうしてるんだろ」
 わずかに残っていたオレンジジュースが溶けた氷でかなり薄くなっていた。それ一郎は音を立ててストローで飲み干した。
「……お前の話を聞いてると、”孤高の天才”もみつけてもらわなきゃ”孤独の天才”で終わっちまうってわけだ」
「うん。 たぶん、あいつらに”天才”て言ってやれたの、俺だけだと思う。 …それでよかったのかな~」
「それで言ったら、お前だってそれだけ才能持ちを見つける嗅覚を持ってるんだ、コンサル業でもはじめてみたらどうだ?」
「んえー、いいよぉ、俺、プロデュース力とかないもん」
 持ってる力を発揮するつもりもない、となると、もはやこいつは”天才未満”だな。などということを、男は心の中で思った。

「さて、そろそろ先生の原稿を取りに行きますかね。 暇つぶしに付き合ってくれてありがとうな」
「いーよいーよ。 物流って休みが全然みんなと合わなくてさー、こうして声かけてくれて嬉しかったよ。 今度はゆっくり飲みにでもいこうぜ。 もう漫画読む余裕もないほど忙しくてさ~! 今度おススメ教えて!」
「そうだな」
 会計を済ませ、来た時より少し傾いた太陽の陽を浴びる。
「じゃあ、先生のお宅はこっちだから。 気をつけて帰れよ」
「うん。 じゃあ。 そういえば、いまから行く先生の名前ってなんていうの?」
「いや、言うわけないだろ」
「え~」
「じゃあな」
 ぶーたれる元同級生に背を向け、編集である男は歩き出す。しばらく歩いてから、今から先生の向かう家が、先ほどまで会話していた男が中学まで暮らしていた町だということを思い出した。
(……まさかな)
 緩く頭を振り、仕事モードに切り替える。年季が入った家は、先生のご両親が立てた物だ。
 売れている今、建て替えてやりたい気持ちもあるが、友人が訪ねてくれた時に、この家がわからなくなるのも嫌だ、と、売れっ子漫画家がひどく悩んでいることを、担当である男は知っている。
(家がわからなくなる……か。 いや、それはいくらなんでもできすぎだろ。 先生は”友達が背中を押してくれた”ってデビューのきっかけについて話してたけど、一郎の方は”友達”って距離感ではなかったぽいし)
 モンモンとしつつ、チャイムを押す。 聞きなれた担当漫画家の声が「ハーイ」とインターホン越しにこたえる。

「ニヒト先生、原稿を受け取りにまいりました!」

終わり

※※※
こんにちは。
ここからは一時間のしばり関係なく書いてます。
正直途中からタイマーみるの忘れてました。なんかオーバーしちゃった気がする。
〆切もギリギリです。いま13日の正午です。
今回もたまたま見つけちゃったから参加してます。
前回、いくつか感想をいただけて、ほぼ「あとがきが本編やないかい」といじられておりました。ニヤニヤしてました。Мじゃないです。まんまとそのツッコミを入れてしまったそちらさんの負けなんだからな。意のままにツッコミを「させられた」んだよ、君たちは。
そんなことはいいや。
自分はホント、面白くないタイプの真面目でタチが悪い方の完璧主義なのでお話を書くと捻りはねえは盛り上がりはねえわで、ね、あんまりコンテストとか人と比べられる機会に触れるのが怖くてね。若い頃はそれなりにそれなりの機会に強制参加したもんですが。うまく言えん。
古賀コンも、投稿したあと結果見るの怖くて気配消してるくらいなので。
みんなは読まれた方が投票に有利になるからガンガン宣伝しな!?ネットなんてね、投稿したそばから濁流のごとく流されちゃうんだから、投票期間中は積極的に宣伝しよう。見つけられないのよ、マジで。流れ早くて(ロム目線)

久々にタイピングしたからブラインドタッチが失敗しまくってマジ困った。
俺のタイピング力はチャットで鍛えた。オタクやってよかったと思ってることのひとつだ。

みんなもとりあえずなんでもやってみよう。
もしかしたら、君もいまは”天才未満”なだけかもしれないぞ。

今回もテーマ回収手堅くやってるところに作家としての思い切りの足りなさと頭の固さを感じる。
いいんだよ。それだって突き詰めれば”個性”であり”味”だ。

このあとがきは時間外だから評価に加えちゃダメだぞ。
でも読んでくれてサンキュ!
俺は結果が出そろうまでそっとしとくわ。緊張に耐えられらんねえもん。

じゃ、お互い古賀コン満喫しような!

睦八 五十一

いいなと思ったら応援しよう!

むつやいそいち サポートとても嬉しいです。 日々の「楽しい」に活用させていただきます。