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【歌日記】2025/4/7 西行庵の鹿鳴

◇歌
鳴く鹿の心に眺む涙川 水無瀬の淵を我忘れめや

◆本歌
色深き涙の川の水上みなかみは人をわすれぬ心なりけり

(山家集1283)

 奈良の吉野にある西行庵を初めて訪ねたのは晩秋で、深い谷を挟んだ山の向こう側で鹿が鳴くのを聴いた。遠く見えない誰かを探すように高く放った後、かけすぎた望みを引き戻すように落として終わるあの声が、幾度も山肌を往還していた。暫く見ているとその鹿と目が合い、しばしの間声が止んだ。残念ながら呼んでいたのは私ではなかったようで(当然だ)、彼は再び急な斜面を鳴きながら上り、山の向こう側へ消えた。
 西行の恋の歌は、ほとんど哀傷歌のように見える。あるいはすべての恋歌はそういうものなのだろうか。鹿の声がどこか諦めているように聞こえるのも、同じ理由かもしれない。鳴き続ける鹿の姿に西行を重ねて見てしまうのは、おそらくこの時の記憶のためだけではない。二千以上遺っている彼の歌の底で動いている、強い意志の源、本歌で言うところの「水上」に感じる深い孤独が、その理由ではないかと思う。

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