MY BEST FILMS 2024 No.30▶︎No.21
映画と出逢うという体験は、自分の価値観や人生観と向き合うことと同意とも言えます。2024年の新作観賞本数は85本。これが多いのか少ないのかはわかりませんが、どの作品にも出逢えたことはとても幸運なことだった、とだけは胸を張って言えます。それは単純に「面白かった」とか「素晴らしかった」というものもあれば、「許せなかった」り、「嫌いだった」ということも含めてです。映画に限らずあらゆる表現と出逢うたびに生まれる喜びだったり楽しさだったり、怒りだったり悲しみだったり、それらすべてが等価値だとは言いませんが、何かしらの感情を呼び覚ますこと、感覚を揺り動かすことのできるすべての表現に敬意を持って臨んでいます。
そういう意味で言えば、昨年観賞した中で僕が最も許せず、怒りを感じた作品がありました。敢えて作品名は挙げませんが、ある地方の街でマイノリティとして断罪した他者のことを排他した挙げ句に氷上で華麗に踊り続ける少女の姿を美しく映しながら「月光」が流れる光景をスクリーンで観たときに、僕は今まで自分が信じてきたものがすべて崩れていくような絶望感に打ちひしがれました。それが表現として何を肯定して、否定して、諦めて、信じているのかという定規は、その作品と出逢った人それぞれに委ねられるわけですが、作り手の無自覚なスノップさが作品全体だけでなく、観る者の感性まで蝕んでいくような非常に危険なものをこのフィルムから感じました。ただきっと、この映画に救われたという人も多くいるのです。果たして、映画は、表現は、この世界は何処に向かってしまうのでしょうか。
というわけで、僕の2024年に観賞した作品のベスト30を発表します。自分がスタッフとして携わったり、間接的に関わった作品は選外としました。なんで30本も紹介するかって?どれもこれも本気で出逢ってほしい作品だからに決まってる!
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30. デッドプール&ウルヴァリン
監督:ショーン・レヴィ

ヒーローとしてでなく、ただ一人の男として死にたかった。そんな己の信念を貫き通し、不屈の最期を遂げて神話になったローガンすらも、無理矢理に蘇らせてしまう不届き者(俺ちゃん❤︎)のクレイジーな祈りが、もはや〈夢の都〉なんかではなく〈今際の国〉になったハリウッドに炸裂する。ブラックユーモアすれすれの残酷描写も、お約束のカメオ・ヒーローたちの豪勢な顔ぶれも、マルチユニバーズの定石らしい大乱闘も、マドンナの“Like A Prayer”が流れるだけで、最高のカオスへとブレンドくれる。行儀良さなんて邪魔なだけ。そんなパーティーの後始末した先の、未来の話をずっと待ち焦がれている。
“Deadpool & Wolverine” dir:Shawn Levy|2024|128min|アメリカ
29. フィクショナル
監督:酒井善三

私たちの心を満たし得る、この世に蔓延るあらゆる創作(=Fiction)は、本当に許されざる一握りの真実を隠蔽するために存在しているだけなのかもしれない。たとえそれらがフェイク(虚像)の集合体に過ぎなかったとしてもだ。そんな警鐘を鳴らしながら、映画史的記憶を映像の随所に配置することで目撃する者を創造の快楽へと貶めていく確信犯的な大胆さ。それでも地獄へと向かうことを恐れない不敵さ。こんな作品がテレビ局主導で生まれた企画ということに、フィクションのアウトプットの新たな光明すら見出していく。
“Fictional”|dir: Zenzo Sakai|2024年|70分|日本
28. I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ
監督:チャンドラー・レバック

2000年代初頭、カナダの郊外の街で映画オタクの少年が辿るビターな青春。誰もが好きなことだけに夢中になっていたいのに、やがてその好きなことに傷つけられ、失望していくリアルでざらついたテクスチャー。それはとても甘くて苦い未熟な果実だけど、君も僕も誰もがその味を覚えているだろう?私たちはエンドロール後の世界に放り出されて、忘れてたことも思い出したくないことをも反芻するだろう。もうレンタルビデオ店なんて見かけることのないこの街を歩きながら。
“I Like Movies”|dir:Chandler Levack|2022年|99分|カナダ
27. メイ・ディセンバー ゆれる真実
監督:トッド・ヘインズ

36歳の女性が13歳の少年と結んだ情事で実刑判決を受けたスキャンダル。時が経ち、その事件の映画化で主演に挑むことになった役者が当事者たちに会いに行き… という魅惑的で世俗的な筋書きこそが迷宮の入り口だ。人間の持つグロテスクさを露わにしながらも美しき死化粧を施していくような語り口はトッド・ヘインズの真骨頂。虚実も善悪も愛欲もすべて泡沫となって消えてしまいそうなソープ・オペラ。果たしてあなたはその鏡(スクリーン)に映る真実を、美と醜などという定規で断罪できると言えるか?
“May December”|dir: Todd Haynes|2023年|117分|アメリカ
26. フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
監督:グレッグ・バーランティ

強大な敵に立ち向かうために類稀なる力で何度も現れるスーパーヒーローよりも、古き良きハリウッド・ロマンスの伝統を継承しようと試みたこの映画の意義。それぞれ幾度となく世界を救ってきたS・ヨハンソンとC・テイタムがただ人間らしくスクリーン狭しと駆け回る姿はどこを切ってもチャーミング。国のメンツを賭けた月面着陸レースよりも、たった一人に伝えたい「I LOVE YOU」を信じたこの映画が、今後の映画史にとって偉大な一歩であることを疑う余地は無い。だからこそ、本作の興行的敗北はあまりにも重い。
“Fly Me To The Moon”|dir: Greg Berlanti|2024年|132分|アメリカ
25. 落下の解剖学
監督:ジャスティーヌ・トリエ

遥か広がる真っ白なキャンパスのような雪原に滴る真紅の血。それは突発的なアクシデントなのか、確固たる殺意なのか。法廷劇というジャンルを隠れ蓑にしながら、男と女、家族、仕事、私たちが社会生活を営むうえで不可欠な人間関係に、未だ消えることのない優劣の境界線が存在していることを可視化し続ける途方もない実験。真実はいつか雪解けとともに川のせせらぎとなって流れてゆく。そんな自然の摂理の中で、浮かび上がる人間の矮小さだけが、それでも消えない儚い情念のように灯っている。
“Anatomie d'une chute” |dir:Justine Triet|2023年|152分|フランス
24.ヒットマン
監督:リチャード・リンクレイター

そう、グレン・パウエルがいるなら大丈夫。そんな時代が到来した。という暴論を豪語したくなるほど2024年は彼の年だった。盟友・リンクレイターと作り上げた本作は、巧みなストーリーテリングとグレンの大胆不敵な七変化でそのことを証明する。警察に捜査協力するために殺し屋になりすます大学教授…という嘘みたいな実話を題材にしながら、自己に内在するさまざまなアクティビティを呼び起こして、人生の新たな可能性を見出してゆく様をスイートに抽出する。すべてのLOVEを手に入れるための超自我が、本当の自分すらも置き去りにしていく、そんなビターな隠し味も忘れはしない。
“Hit Man”|dir: Richard Linklater|2023年|115分|アメリカ
23.SUPER HAPPY FOREVER
監督:五十嵐耕平

映画のいうのは時として幸福な記憶すらも悲しい記録として呼び覚ましてしまう残酷な装置として機能する。あの海辺の町で出逢った君との、ささやかだけど穏やかだった時間でさえも。超絶のハッピーが永遠につづく、そんな終わらない円環の罰を受ける機会は誰もに平等に訪れる。まるであなたはそれに気づいていないだけの生を送っているに過ぎないのだと言わんばかりに。スクリーンに現れた瞬間に雲の隙間から光が射すような山本奈衣留の存在は、本年の躍進を象徴するかのようだ。
“Super Happy Forever”|dir: Kohei igarashi|2024年|94分|日本・フランス
22. オーメン:ザ・ファースト
監督:アルカシャ・スティーブンソン

あの悪魔の子・ダミアンは如何にして生まれたのか。70年代のルックがもたらす不穏な邪気、神に仕える聖職者たちが犯す禁忌、人間の誰もが抱えるささやかな欲望につけこむ悪魔の所業。半世紀近くを経て現代に蘇生されたプリクエルは、そのクリエイションそのものが鮮烈な禍々しさと美しさを撒き散らしながら、これが単なるクラシックへの懐古ではない、極めて現代的な恐怖の畏怖へ繋がる架け橋となる。その身は業火に焼かれながら、伝承を止めようとしないこのフィルムは崇高な気高さすらも漂わせて。
“The First Omen”|dir: Arkasha Stevenson|2024年|118分|アメリカ
21. デューン 砂の惑星 Part.2
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

かつて遥かなる宇宙を舞台にしたSFファンタジーは、映画のあらゆる夢と羨望を表現するジャンルだった。しかしここで奏でられるのは、すべての可能性が砂塵と化した彼方の星で繰り広げられる絶望のオペラだ。この夢想なんて甘美さをかなぐり捨てた宇宙戦記は、狡猾さとタフネスだけがこの腐敗した世界を生き残る術だと伝える。たとえ野望と謀略にその視界が遮られようとも、自らを愛と運命を握る手綱だけは絶対に放さないはずだった。救世主と崇められた彼の眼差しには一切の光すら無い。それでも進むしかないのだ。その空虚ささえも唯一無二の音響へ変えて辿り着いた荘厳の境地。
“Dune: Part Two”| dir:Denis Villeneuve|2024年|166分|アメリカ
