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冷えて、温まって、食べて|一泊二日の静岡旅行

   年が変わったばかりの朝は、すこしだけ世界が澄んでいる気がする。まだ身体は、正月の名残を引きずっていて、それでも旅行のワクワク感が勝ち、朝の五時に起きて、静岡へ向かった。車で約三時間。休憩も取りつつ、最初に訪れたのは、浄蓮の滝だった。

   滝までの階段は急だった。思っていた以上に寒くて、思っていた以上に水が強い。ぶるぶると震えながらも、引き寄せられるように見入ってしまう。痛い。寒さが痛い。でも、でも。それが、不思議と嫌な感覚ではないのだ。空気を吸い込むたびに鼻の奥がツン……とするのに身体がちゃんと生きている感じがした。凛とした空気に、自然と背筋を伸ばされて、頭の中まで洗われていく。

   冷えきった身体のまま、近くの食事処に立ち寄る。朝ごはんをなにも食べていなかったから、迷わず山菜そばを大盛りで頼んだ。

夫はジビエの蕎麦を選んでいた

   まずは、スープから。湯気と一緒に立ち上る、すこしだけ土の匂いがする出汁。口に含んだ瞬間、ほう……と、息が漏れた。ああ、これだ。冷えきっていた身体の奥に、優しい出汁がじわじわと沁み込んで来る。つるりとした蕎麦を啜るたびに、内側から解けていくみたいで、指先の感覚がゆっくり戻ってくる。

   お腹と心が満たされたところで、次は車で移動して修善寺へ向かう。初詣を旅行先でできるって贅沢だなあ……と、幸せを噛み締めながら。素敵な一年にします。見守っていてください。修善寺付近には、美味しそうなカフェがとても多くて、吸い込まれるように入ってしまった。

黒ごまラテと湯葉のぜんざい

   黒ごまラテは、驚くほどに甘くなくて、湯葉のぜんざいは優しい甘さ。この組み合わせが意外なくらいしっくりと、くる。身体の内側が、じんわりと温まっていくのがわかる。急がなくていいですよと言われている気持ちになって、なんだか急に肩の力が抜けてしまった。

   一休みしてから、竹林の小路を歩く。

   どこを切り取っても、息をのむほどに景色が綺麗だ。澄んだ青空と、まっすぐに伸びる竹。自然に触れると、心のざらつきが整っていく気がする。静岡県は、来るたびに好きになる。そんなことを話しながら、夫と二人で歩いた。この旅行が終わるのが寂しくて、次の旅行先を決めながら。

   竹林の小路には、大人も子どもも、竹の上に寝転がれる場所があった。背中に感じる竹は意外と硬くて、でも冷たさが心地いい。空を見上げると、竹の隙間から青が切り取られていて、ただそれを眺めているだけで、頭の中が静かになっていく。気持ちいいなあ。気持ちいい。

   たくさん歩いたあとのおやつは、なぜかガッツリとしたラーメンを。

   あっさりとしたスープに太めの麺がシンプルで、美味しい。旅先では、こういうちぐはぐさも許される。正解じゃなくても、楽しいほうを選んでいい時間。スープを啜りながら、自分に甘くすることを久しぶりに思い出した。おやつに食べるラーメンは、背徳感も相まって、いつも以上に美味しく感じた。

   旅館には三時ぴったりに到着した。客室露天風呂付きの部屋を予約していたので、荷物もそこそこにお風呂へ向かう。誰もいない時間に、熱々のお湯に浸かる。なにも考えなくていい、という贅沢。どんどんぼぉーっとして、思考がふやけていく感覚が、心地よかった。


   夕飯は、言葉にしすぎるのがもったいないくらいに、美味しかった。海のものは生臭さがなく、甘みだけが残る。ひと口食べるごとに、自然と会話が少なくなっていった。ムツのお刺身は、脂が重くなくて、舌の上でほどけるように消えていく。その静かな美味しさに負けて、お酒は控えるつもりだったのに、結局、二人で一合ずつ日本酒を頼んだ。ゆっくり酔って、ゆっくり夜になる。味が、時間の速度を落としてくれる。

湯葉と海月。雲丹。
マグロ・ブリ・ムツのお刺身
カマスの蒸し焼き
低温調理の牛肉と赤出汁のお味噌汁
マスクメロンといちご

   二日目は、伊豆パノラマパークへ。

   富士山が思ったよりも近くて、思った以上に美しかった。写真よりも、記憶に残る景色。富士山を眺めながら、椅子に座って、ただただホットココアをいただく贅沢な時間。

伊豆パノラマパークにある葛城神社

   前日にひょうが降っていたので、水周りは所々凍っていた。それすらも、今日ここに来た理由みたいに思える。今だからこそ見える景色を、そっと目に焼き付けた。

   結局、寒くて室内に入り、最後には、静岡おでんで締める。

   黒はんぺんは、見た目よりもずっとやわらかくて、魚の旨みがじんわり広がる。出汁は濃すぎず、甘すぎず、身体の奥に静かに溜まっていく味だった。もう十分だなあと思いつつ、もっともっと食べたい気持ちもある。帰りがたい気持ちがある。旅は、特別なことをしなくてもいい。寒かったり、食べすぎたり、ただ気持ちよかったり。そんな時間があるだけで、また日常に戻れるんだから。

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