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「フェイクニュース」「陰謀論」に嵌る動機は「正しい情報の不足」ではなく、それ自体が「ウェルビーイング」「救い」でもあるからこそ難しい。

この記事は、最近読んだ「テクノ封建制」的な複数の論考を読んでの読書メモ・感想文、あるいは考察的なものです。要点は以下の通り

・近年のデジタル技術発展によって、従来の資本主義から権力構造が新たな「封建制」に変わりつつあるって?
・「新しい封建制」の権力の源泉は?
・プラットフォームによる情報アルゴリズムが人々を支配し、フェイクニュースや陰謀論、ポピュリズムやファシズムが台頭する?
・でもそれって、情報の流通だけが問題じゃないよね?(タイトルが出オチ)

1.デジタル技術は、誰にどのような権力を集中させているのか

 近年のデジタル技術の発達に伴い、世界は自由主義・民主主義から「封建制」へと回帰する傾向にあるとの主張をしばしば目にする。
 ヤニス・バルファキス(2025)は、「デジタル革命は、賃金労働者をクラウド・プロレタリアートに変えようとしているのかもしれない。(中略)何十億もの人々を、無償で労働をするクラウド農奴へと変貌させた」(p116)など、今後の世界は「市場」と「利潤」の力学で動いてきた伝統的な資本主義から、国際的な枠組みを超えた巨大テック企業が支配するデジタル・プラットフォーム、すなわち「クラウド領地」へと移行している傾向を指摘し、これを「テクノ封建制」と呼ぶ。
 さらに、「新しい封建制がやってくる グローバル中流階級への警告」を著したJ.コトキン(2023)も、「封建時代にエリート聖職者と貴族が権力を分け合っていたように、新しい封建制の中核には有識者層と寡頭支配層の連鎖関係がある。(中略)こうした権力連鎖を可能にしているのがテクノロジーである。かつては草の根の民主主義や意思決定に役立つと大いに期待されたものだが、いまや監視や権力強化の道具と化してしまった。(中略)情報の流れや文化のあり方はアメリカ西海岸に主に拠点を置く少数の企業が厳しくコントロールしている。」(pp45-46)と述べており、共通した問題意識が訴えられている。

2.それは従来の資本主義やメディア支配と何が異なるか。


 新しい「封建制」における権力の源泉は、生産手段や物質の所有ではなく人々の行動を修正・操作するアルゴリズムの独占にある。たとえばNYタイムスの取材に答えたレッサ(2021)は、SNSプラットフォームが単なる情報の通り道ではなく、人間の行動を変える変容システムとして作用している状況とそれがもたらす危機を訴える。SNSのアルゴリズムが「怒りや憎悪を優先して拡散させる」よう設計されており、ユーザー感情や行動志向のハッキングが起きる。
 それによってドゥテルテやトランプのような分断を利用するポピュリストや権威主義的なリーダーの台頭を促し、ジャーナリストなどの発信者に対する誹謗中傷などの抑圧が強まった実態を指摘した。

 バルファキスもまた、イーロン・マスクがツイッターを買収した目的を例示し、「テクノ封建制への入り口という意味にほかならなかった。ユーザーの関心を引きつけ、消費者の行動を操作し、クラウド農奴として人々から無償の労働力を引き出し、最後には商品を売る事業者からクラウド・レントを徴収することが可能になる」(p175)と指摘する。
 すなわち、媒体やプラットフォームといった「場」を支配することこそが、従来の「封建制」でいう「領地」の支配に相当し、「レント」の所有を意味すると見做されている。

 このように情報を支配するゲートキーパーは、もちろん従来のメディア支配や資本主義においても存在した。しかしそれらには一応の「公共性」や「ジャーナリズムの倫理規範」、あるいは「法規制(放送法など)」によるタガが嵌められていた。
 一方でテクノ封建制下の権力は、従来のメディアや資本主義以上に責任の主体が曖昧、かつ不透明なアルゴリズムによって、社会のナラティブを独裁的に操作できる権力を持つ。
 書籍「ストーリーが世界を滅ぼす」で、人間の思考や行動が、常に何らかのストーリーを求め依拠してしまう傾向をと書くJ.ゴッドシャルも、書中で、デジタルテクノロジーを駆使し消費者から情報を吸い上げた上で、最大限の効果があるとわかっているナラティブに接触させ、「そうと気付かせないまま」監視・コントロール下に置くシステムを、「デジタル版パノプティコン(放射状に設計され、看守が囚人の行動を全て見渡せる刑務所)」と呼び、「そこには害の無い新製品から、社会を蝕む思想のウイルスまである」と指摘した。(pp.95-98)

 これらによって、世界で何が起きるか。
レッサは「事実の共有がソーシャルメディアのアルゴリズム増幅によって引き起こされ、統治システム、民主主義の喪失、ファシズムの台頭に繋がる。しかし最も根源的な問題は、私たちが共有する現実(問題意識)を引き裂いていることだ。事実の共有無くして、人類が直面する存亡の問題をどうやって解決できるというのか?」と危惧する。

3.なぜこのような分断が起き、これからの世界では何が「事実」(正しさ)にされるのか?


 一方で、課題はそれだけではない。事実の共有が困難になる要因は、アルゴリズム増幅によるエコーチェンバーやフィルターバブルばかりが原因なのか。仮にそうであれば、ネットワークでのアルゴリズム増幅に対抗し、客観的事実や証拠さえ広く共有できれば問題は解決するのか。
 リー・マッキンタイア(2024)は科学否定の陰謀論者たちの動機を、「かなりの部分は、恐怖、疎外感、イデオロギー、アイデンティティ」(p355)と述べる。林智裕(2022)では、フェイクニュースや陰謀論が起きる要因に「政治的党派性」「商業的成功」「自己顕示欲や集団への帰属意識」3つの動機を挙げ、背景にウェーバーが言う近代社会の「脱魔術化」および人々の死生観や生活の変化に伴う伝統宗教の相対的な影響力低下によって価値観の拠り所を失くした人々が、いわば「神が去った」不安と「疎外された」自らのアイデンティティと存在意義、何らかの政治的党派性や組織内での帰属意識の拠り所を得て安心をするため、あるいはそれらの人々に迎合・便乗しての商業的な成功を目的に「再魔術化」を求めた流れと分析した。(pp.36-42)

 つまりフェイクニュースや陰謀論には、それ自体に一部の人々にとっての「ウェルビーイング」や「救い」としての需要がある。人々の関心は多様で、情報の「正確性」が満足に繋がる条件の人もいれば、全くそうでない人もいる。正確な事実や環境問題に全く興味がない層にとっては、自分を満たす情報の方に価値がある。そういう人々の一部には、トランプやドゥテルテの言葉は心地良く響く。だからこそ選ばれている。

 レッサやバルファキスの指摘を深刻に受け止めつつ、しかしその議論の前提には「偽情報や陰謀論に救いを求めてしまう人々」との分断がある。「テクノ封建制」のアルゴリズムは、そうした人間の脆弱性、心の隙間に入り込み、この「再魔術化」の衝動を最も効率的に「レント」に変えるシステムである側面があるのではないか、と考える。

参照文献:


Opinion | Will Maria Ressa’s Nobel Peace Prize Force Mark Zuckerberg to Wake Up? - The New York Times (nytimes.com),2021.10.21
ジョエル・コトキン(著),中野剛志(解説),寺下滝郎(訳),2023,『新しい封建制がやってくる グローバル中流階級への警告』(東洋経済新報社)
ジョナサン・ゴッドシャル(著),月谷真紀(訳),2022,『ストーリーが世界を滅ぼす』(東洋経済新報社)
林智裕,2022『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)
ヤニス・バルファキス(著),斎藤幸平(解説),関美和(訳),2025,『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』(集英社)
リー・マッキンタイア(著),西尾義人(訳),2024,『エビデンスを嫌う人たち』(国書刊行会)

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