ニセコの観光 「隣接する自治体で生き残りを考える話」交通編
日本の地方が抱える問題は多岐にわたる。少子高齢化による人口減少、労働力不足による地域経済の低迷、若年層の都市部への流出、担い手不足により細る過疎地域の公共交通課題等々、書き出してみると枚挙に暇がないほどである。これらは規模の違いはあれど、全国の地方で同じように起きている深刻な課題ではないだろうか。
今回は私の暮らすニセコ町と東西に隣接する倶知安町、蘭越町という3町で組織するニセコ観光圏の取組について考えたい。観光という産業を介して、同じ生活圏、経済圏を有する隣接自治体で協力して生き残るにはどういう連携が求められるのか。
ニセコ観光圏とは、北海道後志総合振興局管内の上記3町で構成されている地域で、日本国内外から多くの観光客が訪れる国際的なリゾート地を目指している。地域のブランドコンセプトに「NISEKO, My Extreme」を掲げ、ニセコでしか体験できない究極の滞在経験の提供を目指している。
そもそも観光圏整備事業とは、観光庁によって観光圏として認定される複数自治体の事で、国際競争力の高い魅力ある観光地域づくりを実践し、政府の掲げる2030年のインバウンド観光客数6000万人の受入地域を日本各地で整備していこう、というものだ。現在観光庁が認定している観光圏は日本で11地域となっている。
なぜ複数の自治体で協力して観光客の受入環境を整備していく必要があるのか。その理由のひとつとして、訪れる観光客は「ニセコ」に来ているという意識が強く、そこが複数の自治体に跨っていることなど意にも介していないことが挙げられる。
ところが、3町の自治体の観光協会ではそれぞれの町の予算で自町内の情報発信しかできない、という地方自治制度特有の事情がある。つまり、観光客は町境を超える度にそれぞれの観光マップを手に入れる必要が出てきてしまうのだ。ホームページでの案内も同様である。
そこで自治体の枠を超えて観光客にとって過ごしやすい環境整備をすることで来訪者満足度を高め「世界から選ばれるニセコ」の実現を目指しているのだ。同じような取組で日本版DMOというものがあるが、いずれも観光立国によって国内外からの観光客を誘致し、観光による経済効果を国の経済基盤しようとする政府肝入りの観光政策なのである。
観光客の来訪者満足度の向上が「訪れてよし」の標語となっているが、その関係地域に住まう住民満足度の向上、すなわち「住んでよし」がこの観光地域づくりの重要な側面となっている。この両輪をバランスよく高めていく事が持続可能な観光地域づくりの基盤となっている。

そして、このニセコのみならず世界中の観光地で大きな課題となっているのが地域内交通の充実である。中でも、押し寄せる観光客によって圧迫される住民の移動が問題となっている観光公害(オーバーツーリズム)がわかりやすい一例と言えるだろう。
そこでニセコ観光圏では冬季に観光客が集中するニセコエリアでのタクシー不足を解消するため、他の地域からタクシーや乗務員を派遣して運営される取り組みを「ニセコモデル」と称して2023年度から運行している。
ニセコモデルは、GO株式会社が提供するタクシー配車アプリ「GO」を活用し、他地域のタクシー事業者がニセコエリアの限定された区域内で営業できるようにすることで、地域の交通課題を解決することを目指している。
この取り組みは、特に冬季のインバウンド観光客の増加に対応するために重要視されているが、同時に住民たちがこれまで通り利用できる従来のタクシー台数を確保することにもつながっている。
初年度は札幌と東京から8社11台25名の派遣体制で開始した。翌24年度には札幌・青森・東京のタクシー事業者から、前年度の約2倍にあたる12社20台45名が応援隊として参加。そして今年度は札幌・青森・東京に加え、隣接交通圏からも応援隊が派遣され、応援隊と地元事業者合わせて合計19社54台が稼働する見込みとなっている。

だがタクシーは小回りが利いて便利な反面、利用料の高さがネックと感じている地域住民も多い。そこで今後取り組みたいのがデマンドバスの越境プロジェクトである。デマンドバスとはそれぞれの町が既に取り組んでいる交通手段で、主に住民のために乗合い式で運行されている柔軟な自町内の送迎車両である。
料金も無料~200円程度で利用でき、クルマを運転できない地域住民たちの便利な味方となっている。これを町境を越えて3町で相互に運行すれば基幹病院や温泉や買い物への移動に最適なルートを実現でき、地域内交通の利便性が更に高まると信じている。
これは決して財源論を無視した夢物語ではなく、ニセコエリアの宿泊施設で徴収される宿泊税の一部を各町が議会の承認を得て充当していくなど策を講じることが出来れば十分に実現の可能性はある。はずである。
魅力的で選ばれる観光地域づくりをすることでその生活圏に住む住民の幸福度が上がるならば、観光公害などのデメリットばかりに目が行くことはないだろう。
隣り合う町のデリケートなテーマである合併の是非を議論するより先に、今ある観光資源や地域の知恵を活かした越境デマンドバスのような連携策と宿泊税のような具体的な財源の活用で、過疎自治体同士の持続可能性を高めていくことが今後ますます求められるのではないだろうか。

明日こそ良い雪が積もりますように。
