ノスタルジックなカレー臭
※お疲れカツカレーさんの企画に参加しています。
👨僕
「勝田君さぁ、キミこのバイト向いてないよ。縁起のいい名前だから採用したけど、クレーム来てる。臭いって。何の臭い?これ」
僕はいつもこうだ。
スパイスの臭いがするって…。そんなもの食べても持ってもいない。
おかげでバイトが続かなくて、生活も苦しい。
今月の仕送りも、底をつきそうなのに…。
学生街と言うには少し寂しい、大学正門前の大通り。
古びたビルの細い階段を上がると、小さな軽食喫茶がある。
普段なら素通りするところだが、家に帰ったら嫌なことを思い出しそうで、むしゃくしゃしながらもこの店に入ってみた。
「いらっしゃいませ」
マスターがこちらを見る。
一人席は…カウンター席が空いているからそこに座ろう。
「…カウンターはちょっとぉ…」
マスターが申し訳なさそうに奥の席に案内してくれた。
そうして渡された、見たこともないくらい古い、手書きのメニュー。
エモいな…
パラパラとめくってみる。
へぇ、カレーのメニューが多い。ってことは、ココの推しはカレーか。
「すみません、カツカレーください」
カランカランカラン…
小気味いい音とともに、ポニーテールの女の子が入ってきた。
ちらっと目が合った瞬間、彼女の中に溶け込むような不思議な気持ちになった。
カウンター席に座る。
そこは…と思ったが、そのまま何やら話し込んでいた。マスターの娘さんだろうか。
そっか、彼女の席だったのか。
しばらくこの喫茶店に通ったが、その席はぽっかりと空いていた。
👧私
父とケンカした。
舞台俳優になりたくて。バカな夢を見るなと言われたのが悔しくて、そのまま家を出た。
もう10年もたったのに、結局夢は叶わず…。
同棲している彼氏と結婚の話が出てるけど、いまだ実家に帰れてない。
あーあ、人生ってこんなもん?
そんなことを思いながらコンロに火をつける。
鍋がコトコト音を立て始めたころ、彼が帰ってきた。
「おかえりー」
ぎゅっと彼の胸に顔をうずめる。
彼の匂いに包まれると、心が穏やかになる。私を惹きつける大好きなスパイスの香りだ。
彼がクンクンと鼻を動かす。
「あれ、カレー作ってるの?」
「そうだよ。私もちょっとずつお料理も覚えなきゃね!」
喫茶店を営む、父のレシピ。
はじめて作るには難しかったかな。でも、この味が好きなんだもん…。
ちょっとだけ、寂しいような切ないような気持ちになる。
「スーパー行ったらさ、とんかつが2つで298円だったの。だからカツカレーにしよ。」
ちょっと不格好だけど、完璧なカツカレー。
一口目は、彼に食べさせてあげる。
あーん…
もぐもぐしながら彼は言った。
「あれ?この味…知ってる…」
彼はもう一度、今度は目を閉じて味わってみる。
「…昔、僕が通っていた喫茶店のカレーと同じ味だ」
私たちはお互いを確かめるように見つめ合った。
『もしかして、その喫茶店って…』
運命って面白い。
彼は私のスパイスで、彼女は僕のカレーだったのかもしれない。
1176文字
お疲れカツカレーさん主催の、カツカレーをテーマにした作品に挑戦しました。
はじめて小説(のようなもの)を書いたんですが、おもしろいかも!
創作って楽しいと思える経験でした。
これからも短い小説を書いてみたいなぁ。
お疲れカツカレーさん、素晴らしい機会をいただきありがとうございます!
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