☆1
人間として生まれてきたのだから、人間らしく誠実に生きたい。
仕事は誰もやりたがらない、汚くて、臭くて、危険な仕事がいい。
正直でありたい。嘘はいいたくない。自分より弱い人間に対して優しくありたい。
鳥対策の仕事だ。
主に鳩の侵入対策を行う。高いところは危ないし、鳥の糞は溜まると汚い。糞には見たことのない虫が湧く。最近の若者は三日ももたないから、ぼくみたいな人間は大事にされた。ぼくは誰よりも率先して汚い仕事を引き受けた。毎日、糞尿で汚れた作業着を会社の洗濯機で洗う。もちろん、他の作業員の分まで、ぜんぶ。道具も、きれいに整理整頓する。ぼくは、人間として生まれてきたのだから、誠実に生きたい。誰かの苦労を引き受けて、幸福として還元したい。だから、鳩を殺すことも、ぼくの仕事だ。くるしい仕事だから。
鳩は、申請すれば、捕獲の許可を得ることが出来る。うす暗い工場の手すりにとまっている何百もの鳩たちが、ぼくを見下ろしている。ぼくは、捕獲機にぎゅうぎゅう詰めに入っている鳩を、一羽一羽捕まえて、殺す。ぼくは、人間として生まれてきたのだから、だれかのために、生きていきたい。鳩を殺すことは、苦しくて辛い。だからぼくがやる。鳩の身体を掴むとあたたかく、どくどく波打つのが分かる。さいご、血のように真っ赤な瞳でぼくをみる。その瞳に、ぼくはどんなふうに、写っているのだろう。
人間として生まれてきたのだから、ぼくは、誠実に生きたい。
人間らしく、慈悲の心を持って、他人に接したい。だれかが苦しむのであれば、ぼくが苦しもう。そうやって、ぼくの心は暗く、鬱蒼として、ひとり汚れた部屋に帰り、久しぶりにベランダに出ると、ベランダは糞で埋まっていた。ぼくは、一羽の鳩が、隅で丸くなっているのをみる。手でそっとどかすと、あおじろい卵が三つあった。
ぼくは、ベランダの鍵をかけ、カビの生えた布団にもぐり込む。
