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#00 死ぬ気でヒロインやってみろ!

彼らの頭の中をのぞいてみたい。最初はそんな単純な好奇心だった。
生真面目で繊細で、ときに奇想天外である彼らが何を考え、何に悩んでいるのか。

生真面目が過ぎるからこそ、本人も知らぬ間に自らを追い込んでいってしまう。そして神経がすり減ればすり減るほどに、どんどんと死を意識しだす。そんな彼らの生涯に対する好奇心が羨望に変わるのに時間はかからなかった。

頭の中をのぞいてみたい。もっと近くで彼らの人生を見ていたい。
これは私自身のどうしようもなく身勝手で、酷く人間らしい欲望を書いた物語である。


死ぬ気でヒロインやってみろ!


大手出版会社に就職して早5年が経った。編集部に配属されて初めて担当を持てた時は嬉しかったしやりがいに満ち溢れていた。当時からずっと担当をしている作家の「六さん」は、とある作品を機に人気が急上昇し、最近では六さんに憧れて作家を目指す人間たちもちらほらと出てきた。
ここから更に忙しくなっていくであろう、そんな時だった。六さんから「スカさん。折り入って相談があるんだが、聞いてくれやしないか?」と連絡が来たのだ。

第ゼロ話「共同生活」

「どうだろう、引き受けてくれないかな。スカさん。」

先刻の連絡の後、私は新しく引っ越したという六さんの新居に招かれた。今更だが、スカというのが私の名前である。スカバンドが好きだった両親に付けられたが音楽の才能は私には芽生えず、27歳にもなって恋人もいなければ大した野望もない、すっからかんな大人になってしまった。
六さんから送られてきた住所には「人気急上昇中の作家」という呼び名に偽りのない、広くて新しい一軒家があった。そして中に入れば早速本題だと言わんばかりに、正面に座る六さんから困ったような笑顔で先ほどの質問を問いかけられる。そして私たちを囲むように成人男性が3人、同じように椅子に座っていた。

話はこうだ。この成人男性たち全員が作家志望らしい。なんでも私が勤めている出版社に自身の作品を持ち込んできたそうだ。たまたま六さんが会社に行った時に彼らのその作品たちが目に入ったのだという。「私はね、彼らの作品を見たときに一つの可能性を感じたんだ。そこでスカさん、君の上司に伝えたんだよ。この子達を私とスカさんで育てられないかって。」
作家というのは繊細であり、生真面目であり、そして何よりも面倒な生きモノである。だからこそ時間をかけて、あのような1冊の物語を生み出せるのだ。六さんも例外ではなく、このように常人のような素振りで話をしてはいるのだが、なかなかに癖のある人間である。そして私の上司もそれを知っている。知っていて私にこの面倒ごとを押し付けてきたのであろう。

「それで、私に六さんと3人の担当をして欲しいと。」「そういうこと。あと共同生活もね。」そう、一番の頭を抱えているポイントはこの部分である。六さんは私に共同生活を申し出てきたのだ。なんでも彼らをヒットさせるには私と共同生活をさせることが必要不可欠らしい。

もちろん私にだって断る権利はある。しかし、同時に断れない理由もあるのだ。

「…わかりました。」「ありがとう。話が早くて本当に助かるよ」私の返答を聞けば、右手に持ちチラつかせていた睡眠薬を満足そうにポケットにしまう六さん。あの睡眠薬も脅しの道具ではないという事を私は身をもって体感している。

「私のような人間は誰からも必要とされない。ただただ不安なんだ」
病院のベッドで弱々しくそう言っていた六さんの姿を思い出す。一度だけ六さんから原稿が全く上がって来なかった時があり、作品と向き合う時間を作ってあげた方が良いと思った私は一週間彼と連絡を取らないでいた時期があった。しかし、私から催促の連絡が途絶えたことに対して「見捨てた」と感じた彼は、私が自宅を訪れるタイミングに合わせて大量の睡眠薬を服用したのだ。あの日、原稿をもらいに行ったのに呼び鈴を押しても反応がなく、渡されていた合鍵で恐る恐る中に入ってみれば六さんは書斎で倒れており、大慌てで救急車を呼んだことを覚えている。あのような経験はもう二度としたくはないのだ。

六さんは人に見捨てられる事に対して過剰なまでの反応を示す。一見、人当たりが良さそうな彼も実は繊細であり酷くネガティブな性格の持ち主なのである。そして実際に行動に起こすから尚更、下手にあしらう事ができないのだ。

「初めまして、集ケイ社で作家担当をしてます。スカです」3人に向かって頭を下げれば、一人ずつ挨拶が返ってくる。「トンです。黒猫が好きで実家で飼っています」「陽です。六さんに憧れてこの世界を目指しました!」「ぼくは石(シャク)といいます。」トン、陽、シャク、そして六さんと私の奇妙な共同生活はこうして幕を開けたのであった。

「これはね、スカさんのためでもあるんだよ」

登場人物

私 : スカ

トン

石(シャク)


作者

初めまして、白米と申します。

察しの良い方はお気づきかもしれませんが、こちらの登場人物は所謂文豪と呼ばれている方々をモチーフとしております。あくまでモチーフです。

最近、人はなぜ生きているのかについて考えている事が多いです。どう生きるかを考えることは、どう死ぬかを考えること。死に方を考えることは反対に生き方を考えること。
今はまだ、このテーマに対しての自分なりの答えが見つかってはいません。しかし、この物語を進めていく中で答えが見つかったら良いな。見つからなくても、この登場人物たちと成長ができたら良いなと思っています。

そんな自己満足に、よろしければお付き合いください。


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