#06 死ぬ気でヒロインやってみろ!
熱いシャワーを頭から浴びる。思考がクリアなればなるほどに、先ほどの陽くんの言葉が頭の中を泳いだ。「俺と一緒に死んでくれませんか」私はあの問いに答えることが出来なかった。そんな私の様子を見て陽くんは微笑んで立ち上がり、「帰りましょう」と歩き出したのだった。
人生の中で「一緒に死んでくれませんか」なんて言われることはそうそうないと思っているし、不謹慎にも心が躍ったのは確かであった。「喜んで」と答えてしまっても良かったのかもしれない。それでも死ねない理由が喉の奥につっかえてしまい、言葉が何一つとして出てこなかったのだ。何が陽くんをそんなにネガティブにするのか。それを解消してあげたいのに、私が思い浮かぶ言葉は、陽くんに投げかけるにはそのどれもが軽く思えてしまった。そもそも解消してあげたい、なんて考え自体が私のエゴなのだ。彼の思いに付き合ってやろうなじゃないかと豪語していた割に、中途半端な自分自身が嫌になる。
第六話「埋めたかったもの」
ドライヤーをしてリビングに戻れば、この時間には珍しく六さんとシャクくんがいた。「シャクくん、なんだか久しぶりに見た気がする…」ポロッと漏らした私の言葉に、面白そうに反応したのは六さんの方だった。「ははっ、スカさんもこう言ってるじゃあないか。シャク、たまには顔見せてあげなよ」「見せてますよ、原稿もちゃんと渡してるし…」シャクくん、少し浮かない表情?邪魔なら部屋に戻ろうかとも思ったけれど、「スカさんの飲み物取ってくるね」と立ち上がった六さんによって、この場にいることが決定してしまった。
「そういえばシャクくん、こないだ見せてくれた作品。あれに出てくるバンドって実在するバンドをモチーフにしてる?」シャクくんの向かいに腰掛けてそう聞いてみる。まだまだ作品として世に出すには改良の余地がある物語ではあったが、パーツパーツで見てみれば悪くなかった。そして物語のキモとなるバンドの雰囲気にどこか懐かしみを感じたのだ。「え、そうです。スカタライツってゆうバンドで…」「やっぱり!両親が好きでよく聴いてたんだ」「そうなんだ、おれはこの前レコードショップで見つけて」そこから嬉しそうに音楽との出会いを話し始めるシャクくん。「シャクは音楽も好きだからね。博識だよ」飲み物を持ってきてくれた六さんの言葉に「知識が偏ってるから博識とはいえないですよ」と満更でも無さそうに笑った彼からは、久しぶりに年下の可愛らしさを感じた気がした。
気になったものはとことん知りたい主義らしいシャクくん。「好きな作家は誰?」「おれ達以外に担当してる人はいる?」「他に聞く音楽はあるの?」どうやら私に興味を持ってくれたらしく、その夜は質問攻めに合ってしまった。
ふと横を見れば六さんの姿がなくなっている。「あ、六さんならさっき出て行きましたよ」「嘘、全然気がつかなかった」どうやら私が気がつかない間においとましていたらしい。こうゆう時に、彼がいかに他人に対しては薄情な人間なのかが窺える。
その後すぐにお開きになった私たち。お互いにおやすみの挨拶をして自室へと戻った。体は疲れているはずなのに、布団に入ってもなかなか眠気がやってこない。熱いシャワーを浴びてしまったせいだろうか。いや、理由はきっと他にある。
真剣に死を提案してくれた陽くん、まっすぐに興味をぶつけてくれたシャクくん。生きる理由になってほしいと言ってくれたトンさん。彼らの言葉が、考えが頭の中をぐるぐるする。そして、この暮らしを始めて最初に六さんに言われたことを思い出した。
「この共同生活は、私のためでもある。かぁ…」
最初に彼らの心に触れられた時は心が躍ったし、あんなにも好奇心が耐えなかったのに、今となっては彼らから向けられる好意が怖くて仕方がない。それはきっと私がすっからかんのスカだからで、彼らの期待に応えられるほど中身のある人間ではないということを分かってしまったからである。私は彼らを救いたいんじゃなくて、彼らで空っぽの自分自身を埋めようとしていたことに気がついてしまったのだ。
登場人物
・スカ
・六
・石(シャク)
