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知財業界と専門分野:私の専門は「情報発信」と「ITを組織に実装する力」

(まえおき)
本記事は、弁理士の日記念ブログ企画2026 への参加記事です。

今年のテーマは「知財業界と専門分野」。

「弁理士の専門分野は何ですか」と聞かれると、多くの場合、まず思い浮かぶのは技術分野だと思います。機械、電気、化学、バイオ、ソフトウェア。あるいは、特許、商標、意匠、権利化、係争、調査といった業務領域かもしれません。

もちろん、それらは弁理士にとって非常に重要な専門分野です。私自身も、発明を把握する力、明細書を作成する力、スタートアップを支援する力、権利化戦略を考える力については、弁理士として長く向き合ってきました。

ただ、いま改めて「あなたの専門性は何ですか」と問われると、私は少し違う答え方をしたくなります。

私の専門性は、知財の技術分野そのものというよりも、むしろ 「情報発信」「組織構築」 にあると考えています。

もう少し具体的に言えば、知財を業界の外側に届ける情報発信力と、ITを組織全体に実装し、共有し、使いこなすための組織構築力です。この2つの掛け算だけでも自分は、業界の中でも数少ない人物であるという自負があり、まさに私だけ!!  #ソレワタ だと思ってます!!!

(#ソレワタ は私が出演しているラジオの一つ)

2026年7月1日、弁理士の日にIPXが公開したAIガイドラインも、この2つの専門性の延長線上にあります。AIを使うか使わないかではなく、AI時代に知財専門家としてどのように品質を高め、どのように説明責任を果たし、どのように組織全体で学び続けるのか。そこに、私自身の専門性が表れていると思っています。

この記事に書いてあることはこんな感じ

(ここから本編)

AI時代に、知財は業界の外側へ広がっている

まず、情報発信についてです。

AIの登場によって、知財を認知する人は明らかに増えています。

知財業界は、もともとかなりクローズドな世界です。企業知財部、弁理士、弁護士など、知財をすでに理解している人たちの間で、専門的な会話が行われてきました。いわば「プロ対プロ」の世界です。

私自身も、そこから始まりました。企業知財の方々から厳しい指導を受け、厳しい目で見られ、その期待に応える明細書を納品する。そうした実務を積み重ねてきたからこそ、いまの自分があります。その積み重ねがあったからこそ独立でき、仕事をいただき、継続して事務所を運営してくることができました。

ただ、実際にはそれだけではありません。

いま、知財は明らかに業界の外側に広がっています。スタートアップ経営者が知財を意識し始めている。クリエイターが著作権や契約を気にし始めている。個人事業主や中小企業の経営者が、商標やブランドの重要性に気づき始めている。

その背景には、AI時代の到来があります。

AIと壁打ちをする中で、「この名前は他人の商標権を侵害していないか」「この商品名は権利を押さえておくべきではないか」「このビジネスモデルで特許がとれないか」「今回の画像の使用は著作権的に問題があるのではないか」といった話題に、専門家ではない人たちも触れるようになりました。

これは、知財業界の中にいると意外と気づきにくい変化かもしれません。しかし、外側では確実に変化が起きています。

知財リスクは、経営リスクである

私は弁理士であると同時に、一経営者でもあります。

この自覚を強く持つようになったのは、お恥ずかしいながらここ3年ほどのことです。それまでも、もちろん事務所の共同代表ではありましたが、弁理士としての実務にもかなりのリソースを費やしていました。もちろん、それは今でも大切です。

ただ、事務所を経営し、組織をつくり、人を採用し、お客様に価値を届け続ける中で、視座が少しずつ変わってきました。

経営者として見ると、知財は単なる専門論点ではありません。

知財リスクは、経営リスクです。

私に限らず一般的に経営者は、リスクをできる限り排除したいと考えます。財務リスク、法務リスク、採用リスク、事業リスク。いろいろなリスクがあります。その中に、知財リスクも当然存在します。

ところが、知財リスクは「知らなかった」「よく分からなかった」で済まされてしまうことが少なくありません。

でも、それによって会社が危機に陥る可能性があります。ブランドを失うかもしれない。事業を止めざるを得なくなるかもしれない。クリエイターを傷つけてしまうかもしれない。せっかく積み上げた信用が、一つの知財トラブルで崩れてしまうかもしれない。

それは、あまりにももったいない。

だからこそ、私は知財を専門家の内輪だけのものにしたくありません。

特許だけではなく、意匠、商標、著作権、ブランド、クリエイターとの向き合い方。そういった情報を、経営者やスタートアップ、クリエイター、一般の方にも届く言葉で発信していく必要があると思っています。

最近、私たちが特許以外の情報発信にも力を入れているのは、そのためです。

これは事務所のマーケティング的な意味もありますが、それだけではありません。私にとっては、教育投資であり、社会貢献であり、知財業界への恩返しでもあります。

私は知財の仕事に出会い、独立し、本当に楽しい仕事をさせてもらっています。知財の仕事を通じて、普通に生きていたら見えなかったような世界をたくさん見せてもらいました。世の中はこう動いているのか、会社はこうやって挑戦しているのか、技術はこうやって生まれているのか。そういうことを知ることができたのは、本当に幸せなことです。

だからこそ、この業界に恩返しをしたいと思っています。業界の中にも、業界の外にも、できる限り貢献したい。

私にとって、情報発信は専門性です。

知財を知っていること自体ではなく、知財を必要としている人に届く形に翻訳し、社会に広げていくこと。それが、いまの私が取り組むべき専門性の一つだと考えています。

組織をつくることは、本当に難しい

もう一つの専門性が、組織構築です。

弁理士法人IPXは、2018年4月に設立しました。2026年7月現在、メンバーは46人です。

ここ10年ほどで成長している特許事務所という観点では、少なくともトップランナーの一角にいるという自負があります。

ただ、組織をつくることは、本当に大変です。自分で言うのもなんですが、めちゃくちゃ大変です。

SNSをやっていない特許事務所の所長さんたちから、「人が集まらない」「どうすれば応募が来るのか」という悩みをよく聞きます。もちろん、採用市場の構造的な問題もあります。ただ、私はそれだけではないと思っています。

この業界には、そもそも広報という概念がまだ十分に根づいていません。

広報というのは、単に求人を出せばいい、記事を出せばいい、SNSに投稿すればいい、という話ではありません。ブランドをつくることです。

自分たちは何者なのか。
何を大切にしているのか。
どのような人と働きたいのか。
どのようなお客様に、どのような価値を届けたいのか。

それを継続的に発信し、認知してもらい、信頼してもらう必要があります。

良いお客様がいる。良い人がいる。良い仕事をしている。それだけでは足りません。それが知られていることも必要です。

経営者は、全部を見なければなりません。実務、採用、教育、広報、ブランディング、財務、組織文化、IT、リスク管理。何が足りないのか、いま何をすべきなのか、どこに投資すべきなのかを考え、決断し続ける必要があります。

組織をつくるとは、そういうことです。

私の強みは、ITを組織に共有する力である

その中でも、私が自分の強みだと思っているのは、ITを組織に共有する力です。

私は、知財業界に来る前は大学のポスドクで、東京大学大学院情報理工学系研究科で博士号を取得しております。要するに、もともと情報系に関わる分野にいました。小学校6年生のときにはパソコン部に入り、BASICでゲームを作っていました。高校生の頃にはPHPでチャットのようなものも作っていました。

つまり、ITリテラシーは昔から比較的高かったのだと思います。

ただ、ITに詳しいことと、それを組織に広げることは別のスキルです。

どれほど便利なツールでも、「これを使ってください」と言うだけでは組織には広まりません。情報を共有するだけでも足りません。人が実際に使える形にしなければならない。使い続けられる仕組みにしなければならない。自然に横展開される構造にしなければならない。

IPXでは、AIが登場するはるか以前から、ITを使って品質とスピードを高めるための仕組みを作ってきました。

たとえば、明細書作成に伴う反復作業を削るため、独自のWordマクロ群を設立当初から開発してきました。形式チェック、書式整形、サポート記載例の作成、リクレームや要約書の生成更新など、反復性の高い作業を自動化し、ヒューマンエラーを減らすための投資を続けてきました。

これは単なる効率化ではありません。

反復作業を削ることで、人にしかできない仕事に時間を使えるようにするためです。

発明の本質を捉えること。
特許性を見極めること。
権利範囲を設計すること。

そうした弁理士の本来的な専門性に、より多くの時間と集中力を投下できるようにするための仕組みです。

また、IPXでは、開発した機能や実務ノウハウを一部の担当者だけに閉じるのではなく、全所員で共有する文化を大切にしてきました。

誰か一人が便利なものを作って終わりではありません。誰か一人が成長して終わりでもありません。

成果物を組織全体に共有し、誰もが一定以上の品質でアウトプットできる状態をつくる。これが、IPXの組織構築の中核にあります。

AI導入は、組織構築の延長線上にある

IPXにおけるAI導入は、突然始まったものではありません。

AIが流行したから慌てて導入したわけでもありません。AIを使えば人件費を削れるから使う、という発想でもありません。

IPXは、創業以来、ITと自動化に投資してきました。反復作業を削り、品質を安定させ、スピードを高めるための仕組みを作ってきました。成果物やノウハウを全所員で共有するカルチャーを作ってきました。

その延長線上に、新しい道具としてAIが加わっただけです。

2026年7月1日、IPXはAIを本格的に活用した実務体制へ移行しました。詳細はAIを活用した知財サービスの品質向上についてにまとめていますが、要点はシンプルです。

学習オプトアウト済みの企業版AIのみを使用すること。
AIを単体のツールとしてではなく、所内ルール・権限管理・情報管理を含むガバナンスの中で使うこと。
効率化だけでなく、品質とスピードの向上を目指すこと。
そして、最終成果物に対する責任は、従来と変わらず弁理士法人IPXが負うこと。

AIを導入すること自体は、これから多くの事務所で進むでしょう。しかし、AIを本当に組織の力にするには、AIの前に組織が必要です。ガバナンスが必要です。教育が必要です。情報共有の文化が必要です。品質に対する責任感が必要です。

AIだけを入れても、組織は強くなりません。

むしろ、組織の思想や文化が、そのままAI活用の質に表れると思っています。

AI時代に必要なのは、個人技ではなく組織知である

AIについては、いろいろな見方があります。

AIによって仕事が奪われるのではないか。AIが出てきたことで値下げ競争になるのではないか。企業内製化が進み、特許事務所の仕事が減るのではないか。

こうした議論は当然あります。

実際、AIの登場によって、企業の内製化が進む領域はあると思います。特許事務所の市場においても、一定の領域では仕事が減る可能性があります。定型的な作業や、付加価値が見えにくい業務は、今後かなり厳しくなるかもしれません。

ただ、私はそれを単純な悲観論として捉えていません。

AIがもたらしているものは、単なる代替ではなく、ピボットです。

産業革命のときもそうでした。新しい技術が生まれれば、失われる仕事もあります。一方で、新しい仕事も生まれます。世の中に新しいものが出てくると、業態変化が起こります。そして、その変化に対応した人や組織が、新しい経済圏をつくっていきます。

知財業界も同じだと思います。

AIを使えば、誰でも同じ成果を出せるわけではありません。AIの出力をそのまま使うことと、AIを道具として品質を高めることは、まったく別のものです。

AIの限界と特性を理解する。
実務の文脈に合わせて使いこなす。
出力を評価し、修正し、責任を持って成果物に仕上げる。
新しいモデルや機能の変化を追い続ける。
リスクが見つかれば、運用ルールを更新する。

これらを継続するには、個人の努力だけでは限界があります。

だからこそ、組織が必要です。

ここでも、私の専門性は「AIを触れること」そのものではありません。

AIを組織で使える状態にすること。
AIを安全に使えるルールを作ること。
AIの知見を共有し、改善し続ける文化を作ること。
AIによって、弁理士の専門性を拡張すること。

これが、私の専門性だと思っています。

情報発信と組織構築はつながっている

ここまで、情報発信と組織構築を分けて書いてきました。

しかし、この2つは私の中ではかなり近いものです。

情報発信とは、知財を社会に届けることです。
組織構築とは、知財サービスを再現可能な形で届け続けることです。

どちらも、知財を「個人の頭の中」だけに閉じ込めないための取り組みです。

知財を、社会に開く。
知財を、経営に接続する。
知財を、組織の力に変える。
知財を、AI時代に対応できる形に再設計する。

これらはすべて、私にとって一つながりの専門性です。

IPXを作ったとき、強く感じたことがあります。

一人でも仕事はできます。二人でもできます。優秀な個人がいれば、一定の成果を出すことはできます。

しかし、46人近いメンバーが集まり、同じ方向を向いて、価値を出し続けるには、個人技だけでは足りません。人と人との関係性、共有された価値観、カルチャー、仕組み、教育、情報共有が必要です。

組織は、勝手には育ちません。

だからこそ、私は組織構築を専門性だと考えています。

そして、その組織が何を社会に届けるのかを言語化し、発信し続けることもまた、専門性だと考えています。

私の専門分野は何か

改めて、私の専門分野は何か。

技術分野で答えるなら、情報系を中心に、電気と機械と言えるかもしれません。
業務分野で答えるなら、特許権利化、スタートアップ支援、ITの知財戦略と言えるかもしれません。

しかし、いまの私が本当に専門性として意識しているのは、もう少し違うところにあります。

一つは、知財を業界の外側に届ける情報発信です。

知財を知らなかったことで、会社が危機に陥る。ブランドを失う。クリエイターが不利益を受ける。そういうことを少しでも減らしたい。知財を専門家だけのものにせず、経営者、スタートアップ、クリエイター、社会全体に届く分かりやすい言葉で伝えていきたい。

もう一つは、ITを組織に実装し、組織として使いこなす力です。

便利なツールを知っているだけでは足りません。AIを触っているだけでも足りません。それを組織の中にどう広げるか。どう標準化するか。どう文化にするか。どう人の成長や業務品質につなげるか。どうお客様への説明責任と品質責任を果たすか。

そこまで設計して初めて、ITやAIは組織の力になります。

弁理士の専門性は、技術分野や法域だけで決まるものではないと思います。

知財をどう社会に届けるか。
知財をどう経営に接続するか。
知財業務をどう組織として再現可能にするか。
AI時代に、知財専門家の価値をどう再定義するか。

私にとっての専門分野は、そのあたりにあります。

そしてこれからも、知財業界の中と外をつなぎながら、情報発信と組織構築を通じて、知財の可能性を広げていきたいと思っています。

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