【試し読み】無職経歴書
エッセイ集『無職経歴書』の試し読み記事です。5/11(日)の文学フリマ東京40と、STORES(準備中)で販売予定です。
興味を持っていただけた際にはぜひ続きをお読みいただけたら嬉しいです!DM等で感想をいただけたらさらに喜びます!!!

【文学フリマ東京 出店情報】
🗓5/11(日) 12:00〜
📍東京ビッグサイト 南3-4ホール【せ-45~46】(ブース名:rnpress)
⏰販売時間:確定次第追記します!
(rnpress様のブースを間借りするため、2時間程度限定で販売を予定しています)
📕イベント詳細
https://bunfree.net/event/tokyo40/
無職経歴書 目次

20卒、仕事を辞めた。こんなはずじゃなかった。(2020年6月)
自粛規制が緩和されてきた六月のある日、私は仕事を辞めた。
未知のウイルスが世界を襲う、誰にとっても想定外の春だった。私が足を踏み入れた社会人生活もまた、「こんなはずじゃなかった」の連続だった。
自分としては激務だったし、慣れないことばかりで失敗だらけ。理不尽に怒る上司なんてひとりもいなかったから、だからこそ自分のできなさや、会社のお荷物になっていることへの罪悪感が募った。
「自分は何もできない」
意識はどんどんどんどん内側に向き、本来向き合うべきお客様よりも、上司の顔色ばかりを伺うようになった。
オフィスにいると、パソコンの画面を見ている目は滑り、意識は会議室から漏れ聞こえる上司たちの声に翻弄される。気づいたら自分を責める声が聞こえるようになり、業務に全く集中できなくなった。
❏ ❏ ❏
ゴールデンウィーク明けの木曜日、その日も業務に集中できなくて、普段ならしないようなミスを連発した。
あぁ、ほんっとうに私は何もできないんだ。頭の中で、「あの子って何をやらせてもダメだよね」という声が止まない。
オフィスのど真ん中で号泣したのち、業務を減らしていくことになった。
❏ ❏ ❏
仕事は、辞めてからも地獄だ。
なんて残酷なんだろう。仕事は、辞めても辛かった。
家にひとりで過ごすことが多くなると、「こんなはずじゃなかった」のひと言で頭がいっぱいになる。
リモート飲み会をしても、同期たちは毎日大変と言いながらもやりがいを感じているのが隠しきれてない。Twitterで出会う「二〇卒@仕事辞めたい」アカウントだって、みんな実際に辞めてはいないのだった。
❏ ❏ ❏
平日の昼下がり、ベッドに寝転がり窓の外をながめる。
「あれ、私、ニートになるために東京にきたんだっけ」
「こんな晴れた日にゴロつく娘のために、お母さんは仕送りを送ってくれていたわけじゃない」
自分を責める言葉が、次々に生まれては消えていった。遠い空を、雲が流れていく。
働き始めてから、自分の欠点を探す毎日だった。明日はどこを指摘されるかわからない。新卒とはいえ、社会人として同じ指摘を二度受けるわけにはいかない。自分のミスを見つけて、見つめて。誰かに気づかれる前に帳尻を合わせなければ。
そうして生き延びようとした社会人生活。だけど、目の前がまっさらになった今、どうしたら人生の帳尻が合うのかがわからない。
みんなができることが、どうして私にはできないんだろう。
私、どこで人生間違えたんだっけ……?
❏ ❏ ❏
二週間ほどふさぎ込んでいたある日。仕事を辞めたことを唯一知っていた知人から、とある提案があった。
「一度実家に帰ってみたら?」
かけられた声に、意味のある言葉は返せなかった。判断力のにぶった頭を回転させるふりをしながら、「はい」でも「いいえ」でもない返事をする。
たしかに、仕事もなくなった今、東京にいる理由はひとつもない。鉛のように重い心を抱えるのは、もう限界だった。
母が暮らす実家で、ほどほどに家事をしながら暮らす自分を想像してみる。毎日家事をしたって、時間は余るほどあるだろう。何かしていないとネガティブ思考に陥る自分は、受験勉強に一生懸命だったあの部屋に戻ったら、また今の自分を責め続ける。
何か、罪悪感のない暇つぶしはないだろうか。
❏ ❏ ❏
仕事を辞めてから、なんとなく社会人が起きる時間に起床し、なんとなくパソコンをいじっていた。
「何かしたい、でも何もしたくない」
自分でもどこに向かったらいいのかわからない葛藤の末、ひとつ思い浮かんだ暇つぶしが書くことだった。
学生の頃、世界中を旅しながらエッセイを書く人に憧れて、ライティングのアルバイトをしていた。あの人みたいになりたいと思いながら、心のどこかで、真似できない生き方だと諦めた。
希望を思い出したとき、自分にはできないと諦めた書く仕事をもう一度目指そうと思った。「みんなと同じ」に囚われていた就職活動を機に諦めてしまったが、もとはと言えば、自分のしたい生き方も働き方も、全然みんなと同じではなかった。
心臓が縮みそうなほど不安だし、いつ「やっぱ辞めた」と言いたくなるかもわからない。けれど、みんなと同じようには頑張れないことを認めたら、気持ちが楽になった。沈んでいた心に、風が吹き始めたようだった。
❏ ❏ ❏
2020年も半分が過ぎ、夏休みもプールもない八月が来た。
「こんなはずじゃかった」を生きるすべての人たちへ。どうか、健康で。心と、体の健康を保って生きていてほしい。あなたはあなたのペースで。私は私のペースで。みんなと同じように、頑張れなくていい。
