メイドットの黄金比 vol.02

喫茶店で、シャツをきっちり来たメイと、大胆なドレスを着たリルが魚がささった大きなパイをバクバクほおばっている。

メイ「だいたいね。私はまだあなたのこと信用してるわけじゃないから」

リル「相棒に必要なのは信頼でしょ。こんな美人のどこが信じられないの?」

メイ「そういう発言すべてでしょ」

リル「言っとくけど、メイも美人よ。美人が言うことが信じられないなら、メイの言うことも信じられなーい」

メイ「な……」

メイが顔を赤くする。ふたりは喫茶から出て、馬車や花売りでにぎやかな大通りを歩く。

メイ「……で、イーストミンスターの隠れたお宝を探す。その手がかりは、初代当主のエドモンドが持っていた絵画にある」

リル「絵画とは限らないわよ。昔は壺や剣も芸術品として蒐集していたみたいだし」

メイ「じゃあとにかく、その当主が持っていた芸術品を集める。それが私の親父がいなくなった理由を探すことにもつながる」

リル「そういうこと!よく出来ました。」

メイ「じゃあ、なんで私達は都(ルビ:ここ)にいるの?」

ふたりの後ろには、イースタニア帝国の皇帝が住む豪華絢爛な宮殿がある。

リル「あんな東の片田舎にいたって、国宝なみの芸術品なんて見つからないわよ。だいたい、エドムンドの芸術品ってどこの誰が持っているのか全然わからないものばっかりなんだから」

メイ「希望が持てる話をどうも」

リル「ただ、エドムンドのコレクションは当時から質がよくて高値だった。つまり、売られたとしてもこの国で買える人は限られてる」

メイ「この国の金持ち全員に『イーストミンスターの芸術品を持ってませんか?』って聞いてまわるってことね。了解」

リル「それもいいけど、それよりいいのは確実に "持ってる" 人のところに行くことね」

メイ「確実に持ってる人?」

リルがこともなげに言う。

リル「皇帝とか。」

***

がらくた市場を熱心に歩くメイ。その後ろをリルがだるそうに歩いている。

リル「本当に、こんなところに王宮に入るためのコツがあるの?」

メイ「こういうところにしかないのよ。いい?私は貿易商の国家資格を持ってるの。何か王宮の人が興味を持ちそうなものを見つけて、中に入れば……」

馬に乗った役人がふたり現れ、市場の真ん中にある広場でラッパを吹く。周りの人々が全員地面に頭をふせる。メイも頭をふせながら、少しだけ顔をあげて役人の方を見る。

役人「皆に告ぐ。来たる満月の日に、隣国ダンシェ皇国から高貴な方々が我が皇帝に挨拶にいらっしゃる。慈悲深い皇帝は、皆様をダンシェ皇国の品でもてなしたいとお考えだ。ダンシェ皇国の品を持つ者は、優先的に王宮に献上せよ」

もうひとりの役人が、広場の石壁に木の触れ書きを打ち付ける。メイとリルは目をあわせる。

***

メイ「ダンシェ皇国で一番価値が高いのは、ターネルという200年前の風景画家の絵らしいけど」

ベッドが2台ならべられただけの簡素な宿屋に、出来の悪い風景画がたくさん広げられている。その上でブラックコーヒーを飲みながらメイが言う。

メイ「どんな絵を描く人かわからないのよ。貴重な絵だから、この国に入ってきてるのはこういう質が悪い模造品ばっかり」

リル「好都合よ。このターネルって人の贋作があれば、王宮に忍び込めるんでしょ?」

リルが床でトランクの荷物を広げながらいう。いつもの露出が多いドレスではなく、絵の具まみれの汚れた服に着替えている。

メイ「そりゃね。つまり皇帝は、隣の王様に見栄をはりたいわけよ。『お前の国の大事な宝は私が持っています』ってね。やりたいことは、もてなしじゃなくてただの威嚇。国宝なみの芸術品があれば、王宮はどんなものでも欲しいはず」

リル「それだけわかれば十分だわ。2時間でその国宝とやらを作るから」

メイがガバっと飛び起きる。

メイ「無理に決まってるでしょ?普通の絵画でも描くのに時間がかかるのに、贋作なんて…….」

リル「贋作だから、よ。まあ見てて」

2時間後。

メイ「…すごい。」

ふたりの前に、木炭で簡単に書かれたターネルの習作が大量に並べられている。とにかく大量で、100枚ぐらいはあるように見える。そのどれもが、活き活きとしたタッチで、ずっと見ていたくなる出来栄えになっている。

メイ「短時間でこんなに描くのはすごいけど、これで本当にだませるの?」

リル「ペテン師のくせにだましの基本をわかってないのね。贋作は丁寧ならいいってもんじゃないのよ。本物の画家はもっと気楽に書くでしょ。丁寧に真似しようと思うと、どんどん偽物になっちゃうわけ」

メイ「でも、ターネルは油絵を描く人で、こういう木炭でのラフな絵は描いてなかったみたいだけど」

リル「だからこうしたの。実際にあるものより、ないものを作る方がだましやすい。『ターネルは実は木炭画も描いていたが、生前は注目されず、そのせいで安値で隣国に売りさばかれた』。いかにもありそうな話でしょ」

パンパンと手を叩いて、リルが言う。

リル「さて、商品は準備したわよ。売るのはあんたの役目」

メイがにやっと笑ってコーヒーをひとくち飲む。

メイ「それなら任せて。王宮は得意よ」

***

王宮の郊外にある小さな城。いまは屋根の崩れた廃墟になっている。小高い丘に建てられており、遠くにある王宮が見える。

リル「よくこんなちょうどいい廃墟を知ってたわね」

メイ「仕事に使えそうな舞台は常に把握するようにしてるの。ペテン師は用意がすべてだから」

召使風の汚い服を着たリルが、スカートをヒラヒラさせながら言う。

リル「なるほどね。でも、この衣装はなんとかならなかったの?」

メイ「あなたがいつものドレスを着たら、すべてが台無しになるわよ。目立つのはその金髪だけで十分なの」

リル「金髪は目立ってもいいの?」

メイ「何かひとつ特徴を作れば、他のことは忘れてもらえる。変装の基本よ。さて、来たかしら。」

小太りの役人が、杖をつきながら丘をのぼってくる。顔は赤くなっており、いかにも機嫌が悪そうである。

メイ「こんなところまでありがとうございます。ファイン二級代理人。」

メイが二級に力を込めていう。

ファイン「本当にお前らがターネルの絵を持っているのか?こんなところまで呼びつけよって」

リル「すみません。私たち、お金がなくて王宮までは行けなくて。手紙を送るので精一杯でした」

ファイン「で、どれだ?」

メイが廃墟の中を歩いていく。かつて大広間があったらしき場所で止まると、地面を指さした。

メイ「ここでリリーとピクニックをしていたんです。ふたりで遊びで地面を掘って、そしたらリリーのスカートに泥がついて……」

ファイン「そんな話はどうでもいい。それで、どれだ」

メイが油紙に包まれた絵の束を差し出す。

メイ「村長がいうには、このサインは『ターネル』だって。でも村長は、これを私たちの冗談だと思ってるんです。だからファインさんをこっそり呼びました。私たち、文字も書けないのにサインの偽造なんて……」

ファインはメイの言葉を聞かず、油紙の絵を1枚1枚見た。そして鼻をならすと絵の束をメイに突き返した。

ファイン「話にならん。ターネルは油絵しか描かん」

リル「あら、やっぱりそうなんですね!」

ファイン「やっぱり?」

リル「えらい方が言ってたんです。ターネルはこんな木炭絵を描かないって。でも、木炭絵はもともと価値がないとされていたから、外国に流れた可能性もゼロじゃないって。その人が、どうせガラクタ同然の値段だから、ファインさんが無理なら買い取ってくれるって…」

メイ「リリー!その話はしないでって言われたでしょ」

はっとしてリルが口をふさぐ。

ファイン「買い取ると言ったのは誰だ?」

リル「……..」

ファイン「言わないなら、お前らを偽造罪でしょっぴくこともできる」

リル「言います!王宮代理人の方です。名前は…ラ、なんとか…」

ファイン「ライオネルか?」

ファインが少し考え込む。

(これが本当にターネルなら王宮代理人になれるかもしれん。逆に、買わなければライオネルにターネルをみすみす見逃したと報告されるかもしれん…)
(どうせ端金だ。買う方が早い)

ファイン「どうせ王宮代理人に買われるなら、わしが買っても同じことだ。がらくた同然の値段だが、わしが買おう」

メイ「やったー!じゃあ、ひとつだけお願いしてもいいですか?」

ファインが眉をひそめる。

リル「あたし達、一度でいいから王宮を見てみたいんです。ほら、村の皆に自慢できるでしょ?ライオネルさんは王宮を見せてくれるって言ってて、だから…..」

ファイン「わかった。わかった」

ファインが両手をあげた。

ファイン「どうせ絵の売人は王宮に連れていかなきゃならん。王宮の最初の広間なら、お前らだってのぞくぐらいは出来るだろうよ」

***

ファインが丘をぜえぜえ言いながら降りていく。

リル「思った以上にうまくいったわね」

メイ「王宮は人数が多いからね。関わる人が多いところほど、ああいう適当な仕事をする代理人が増えていくの。地方の豪族より、王宮をだます方がよっぽど簡単よ」

リルが感心した様子で腕組みする。

リル「このお城で見つけたっていう話もうまく信じてくれたわね」

メイ「本物の作品も、こういう場所から偶然見つかることが多いからね。高級品を売るときは『強欲な人』に『需要があるとわかっているもの』を『急かして』売るの。どこで見つけた商品かはっきりしていれば、彼らは必ず買ってくれる」

リルがにやにやして言う。

リル「あたしが作って、あんたが売る。もしかして、あたし達ってかなりいい組み合わせじゃない?」

メイ「馬鹿いわないで。親父のためにあなたと組んでるだけなんだから」

リルがぺろっと舌を出した。

リル「わかった、わかった。では、いざ王宮ね!」

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