医療現場の暴力は「仕方ない」じゃない | スタッフを守る3つの制度と直後にやること5つ
「病気のせいだから仕方ない」
「認知症だから注意しても意味がない」
「私の対応が悪かったのかもしれない」
医療現場で働いていると、自分や周囲のスタッフが暴力の被害にあうことがあります。そんなとき、このように諦めてしまっていませんか?
私も現場で何度も被害にあい、「そんなものだ」と自分の中で消化していました。しかし心身の限界を感じて、休職した経験があります。
最初に結論をお伝えします。患者さんからの暴力は「仕方ない」ものではありません。スタッフは労災保険・職場の安全配慮義務・刑法という3つの仕組みで守られています。
この記事では、次の3つがわかります。
暴力を受けた直後にやること5つ
あなたを守る3つの制度(労災・安全配慮義務・刑法)の使い方
ひとりで訪問する看護師のための事前の備え
多忙な現場で心身ともに疲弊し、行動する気力が湧かない時もあると思います。それでも、知っているだけで自分や周囲のスタッフを守れることがあります。
「こんな制度があるんだ」という感覚で読んでもらえると嬉しいです。
1.暴力を受けた直後にやること5つ
いざという時は、順番を知っているかどうかで結果が変わります。覚えるのは「離れる→報告→記録→受診→制度」の5つです。
①その場から離れる
反撃も説得もいりません。まず自分の安全です。応援を呼べる環境なら呼んでください。
離れた間に患者さんが点滴などの挿入物を自己抜去したとしても、あなたが責められる理由にはなりません。訪問中なら、退出する判断も正当です。
②必ず報告する
「これくらいで…」と思っても、上司や管理者に報告してください。腕を掴まれる、爪を立てられる——こうした行為も暴力です。
報告はあなたの保身になります。同時に、次の被害者を出さないためでもあります。「報告した」という事実を記録に残すことが、後のすべての手続きの土台になります。
③記録を残す
記憶は薄れます。その日のうちに、事実だけを書き残してください。
☑いつ、どこで、誰から、何をされたか
☑ケガや症状(写真が撮れるなら撮る)
☑目撃者の有無(同時間帯に勤務していたスタッフの把握)
☑自分がどう対応したか
職場の記録とは別で、自分用の記録も持っておくと安心です。
④ケガや不調があれば受診する
「これくらいで病院なんて」と思わないでください。受診記録は、労災申請や警察相談のときの客観的な証拠になります。心の不調も同じです。
⑤制度を使う
ここからが本題です。次の3つの制度を順番に説明します。
2.あなたを守る3つの制度(労災・安全配慮義務・刑法)
制度①患者からの暴力によるケガは労災の対象になる
患者さんからの暴力でケガをした場合、原則として労災の対象です。仕事中の出来事だからです。「患者さん相手だから労災にならない」は誤解です。
さらに、患者さんという「第三者」から受けた被害は第三者行為災害と呼ばれます。この場合、2つの権利が発生します。
・労災保険の給付を受ける権利 ・加害者側へ損害賠償を求める権利
両方を満額受け取ることはできず、支給額は調整されます。それでも、権利として両方あることが重要です。
対象は治療費だけではありません。休業した場合の補償も含まれます。手続きは職場経由が基本です。職場が動いてくれない場合は、労働基準監督署に直接相談できます。
制度②職場には職員を守る「安全配慮義務」がある
職場に守ってもらうのは、お願いではなく権利です。
使用者(病院・施設・ステーション)は、職員が安全に働けるよう配慮する安全配慮義務を負っています(労働契約法第5条)。
実際の裁判例もあります。入院患者からの暴力で傷害を受けた看護師が病院を訴え、病院の安全配慮義務違反が認められて慰謝料の支払いが命じられました。厚労省の検討会資料にも掲載されている事例です。
危険な患者対応をひとりでさせ続ける。報告しても何の対策も取らない。そうした職場の姿勢自体が、法的責任を問われうるものです。「報告しても何も変わらない」と諦める前に、この言葉を知っておいてください。
制度③患者からの暴力にも暴行罪・傷害罪が成立しうる
患者さんからの暴力も、法律の上では暴力です。
・殴る・蹴る・物を投げつける → 暴行罪(刑法208条)
・ケガをさせられた → 傷害罪(刑法204条)
「相手は病気だから罪に問えないのでは?」と思うかもしれません。たしかに責任能力が争点になるケースはあります。それでも、判断するのは警察や司法です。被害を受けた私たちが、先回りして諦める必要はありません。
緊急時は110番。急ぎではないけれど相談したい場合は、警察相談専用電話「#9110」が使えます。事件にするかどうかを決める前の相談だけでも可能です。
3.ひとりで訪問する看護師のための事前の備え
病棟と違って、訪問先では応援を呼べません。だからこそ、起きる前の備えが命綱になります。今日からできることは3つです。
①不安のある利用者宅への二人訪問を求める
安全管理上の正当な要求です。人手不足で二人訪問が難しい場合は、訪問の見合わせも含めて管理者に相談してみてください。
②契約書に暴力・ハラスメント時の対応を明記してもらう
契約書や重要事項説明書に、暴力・ハラスメント発生時の対応(サービス中止を含む)を明記するよう、事業所に提案できます。
③自治体の相談窓口やマニュアルを調べておく
「都道府県名+訪問看護 暴力 対策」で検索すると見つかります。兵庫県のように、専用の電話相談窓口を設けている自治体もあります。
まとめ | 「仕方ない」と言わせないための4つの知識
被害者が我慢し続けたあげく、限界がきてしまう。そんなことが起きる根本的な原因は「守られる仕組みを誰も教えてくれなかった」ことです。
知識を持つことが、そのまま解決策になります。
暴力を受けたら:離れる→報告→記録→受診
ケガや不調は:労災の対象。第三者行為災害として賠償請求の権利もある
職場には:安全配慮義務がある。対策を求めるのは権利
刑法上も:暴行罪・傷害罪にあたりうる。迷ったら#9110
我慢は、美徳ではありません。あなたが声を上げることは、次に同じ目に遭うはずだった誰かを守ることでもあります。
私たちは、ケアをする側である前に、守られるべきひとりの労働者です。
もし今、思い当たる出来事を抱えているなら、まずは今日の分の記録を残すところから始めてください。
※この記事は公的機関の公開情報をもとに作成していますが、個別のケースの判断は状況によって異なります。実際に被害に遭われた場合は、労働基準監督署、警察相談(#9110)、弁護士など専門窓口にご相談ください。
【参考資料】
・厚生労働省「第三者行為災害のしおり」 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040324-10.html
・日本看護協会「医療現場での暴力対策」(暴力対策指針の解説ページ) https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/safety/violence/index.html
・兵庫県看護協会「訪問看護師・訪問介護員等に対する暴力等対策」(マニュアル・相談窓口) https://www.hna.or.jp/for_nurses/n_visiting_nursing/against_violence/
・警察相談専用電話「#9110」(最寄りの警察の相談窓口につながります)
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