見出し画像

「猫の手、パンの耳、沢庵のしっぽ。(3月10日)」

*
うちの猫さんは、見事なほどに猫っぽい。
まあ、元来の生まれが猫なのだから猫らしくても、なんら問題はないのだけれど、その行動がそっけなく、まさに猫の"それ"なのだ。

こちらが『猫の手も借りたい』ほどに忙しい時でも、私が呼んでいるのにも関わらず、背中を向けたままで耳だけをチラリと向けたり、しっぽの先をわずかに動かすのみ。お尻を見せたままで、なんとかしようと無精を決め込んでいる。

けれど、その要件に「ちゅ〜る」という大好物の単語が入っていようものなら、たとえ爆睡中であっても即座に飛び起きて、こちらにやって来られるのである。
耳やしっぽだけの応答は、それが無精ゆえの代物と言われても仕方のない態度だと思う。

*
「猫の手も借りたい」の意味を辞書に当たるとそこにはこうある。
『極めて忙しく人手が足りないため、普段は役に立たない猫の手ですら借りたいほど、誰でもいいから助けが欲しい状況』を指す慣用句。

語源は近松門左衛門の浄瑠璃『関八州繋馬』とされ、そこから商売繁盛や多忙を極める状況を表す際に使われた。
浄瑠璃芝居で使われたのが最初とは、初めて知った。

(なぜ、サンドウィッチは、わざわざ「パンの耳」が外されているのかしら?  作った人が役得で食べちゃうのかしらね。🤭)

*
それはさておき、世の中には一見、猫さんの耳やしっぽだけの反応くらいに、役に立っていなさそうな物がある。
例えば「パンの耳」や「沢庵のしっぽ」などはどうだろう。

私たち日本人のパンの好みは、普段食べている白いごはんからの派生なのか、食パンはソフトな口当たりで、もっちりな中身は好まれても、堅くてゴワゴワしたパンの外側、耳はあまり好かれていない。
それが証拠に『自家製焼きたてパン』を"ウリ"にしているパン屋さんであっても、パンを焼いた時にどうしてもできる両端の堅いパンの耳はカットされて、そればかりを詰め込まれた一袋が、同じ大きさの食パンよりも随分とお安く売り捌かれている。

けれども、パン屋さんのクリアランスコーナーのパンの耳の詰め合わせは、私のご贔屓である。お店に入るなり、一番に目をやって在庫の有無を確かめる。

いやいや『貧乏くさい』と言うなかれ。
そのままでは、確かに硬くもっさりしていて、お口につらい。
だが、試しに軽くお水を吹きかけて、トーストしてみるといい。
小麦の良い香りと、パイを思わせるサクサクとした歯触りで、これは日本人が普通に好む"ふわトロの中身"とは一線を画す美味しさを見出せることだろう。

こんな絶品を知らずして、普通の食パンを割高なお値段で買っている人たちが可哀想に思えるほどである。
パンの耳への愛が強すぎて、言葉がキツくなってしまった。お詫びする。

(猫さんが尻尾を振っているのは、💢イラついているから。なんか、人間の「貧乏ゆすり」みたいに感じられなくもない。)

*
同じことは「沢庵のしっぽ」、つまりはお漬物の沢庵漬けにも言える。
沢庵漬けとは、日本の臨済宗の僧侶の沢庵和尚が考案したとの逸話から「沢庵漬け」とあだ名されている。

この沢庵漬けとは、大根を丸ごと一本漬け込んだ物であるから、当然のこととして、真ん中の太く形が良くて、いかにも沢庵漬けらしい姿がある一方で、細く貧弱なしっぽもできる。いびつな形なので、自家消費されてスーパーの店頭に並ぶことはない。
けれど、どんなに姿が良くなかろうが「沢庵漬け」なのである。
味にどれほどの違いがあるのだろう。

それは、先述のパンの耳にあっても同じではないのか。
そのままでは口に当たって辛くとも、ひと工夫すれば、それはむしろ美味となる。美味しくないというのは、そこに「美味しく食べよう」という知恵が働いていないからと言えなくはないか?

*
現に、今でも福井の永平寺などでは、托鉢で得られた大根を大量に漬けて、修行僧の食餌(食事)に出されるが、スーパーでは姿すら見えない大根の葉っぱや、しっぽまでを残さず頂くという。
そこでは食事の作法として、出された沢庵漬けのうち数枚を食事の最後まで残しておき、最後に、それで自分の食器をお白湯と共にぬぐい綺麗にするのだ。

その様子は、フレンチやイタリアンでお皿に残った美味しいおソースをパンの端っこで拭って残さず楽しむのに似ている。

一見、役に立たず、無意味に思えても、そこには与えられ、果たされるお役目が備わっているのである。無意味に思えるのは、それに私たちが気づいていないだけなのかもしれない。

(猫さんが背後を見せているのは、「信頼の証」なの。人間同士だと、背を向けるのはあまり喜ばれないのだけれど…。)

*
そういう意味では、わが家の猫さんも、私がお勉強している時には、少し離れて無関心を装っていても呼べば、耳なり尻尾なりで反応する。『ちゃんと寄り添い見守っている』と知らせてくる。立派に役に立っているのである。
これからは、忙しい時に「猫の手も借りたい」という言葉の使い方には気をつけよう。

そっけないのは、まさに猫の"期待に応えないことでこちらの気を引く、天性の「ツンデレ」気質。それが猫の本質"なのだから。

今日も、良い一日になりますように。
(🎹MIYABI)

いいなと思ったら応援しよう!

みやび ご支援くださり、ありがとうございます。くださったチップは、楽譜やご本の購入代金に使わせていただきます。

この記事が参加している募集