【短編小説】おばあちゃんのおにぎり
「いらっしゃい」
店内には炊き立てのごはんの、やさしい匂いが立ち込めている。
ショーケースに並ぶ、綺麗なおにぎりたち。しゃけ、昆布、焼きたらこ、ツナマヨと定番の味から、エビチリ、唐揚げ、肉味噌などのガツンとメニューまで。
私は毎朝ここで、おにぎりを買う。今朝はしゃけと、大好きな唐揚げ。
その二つを持って、レジに向かう。
「はい、しゃけと唐揚げね。320円です」
レジにいる小さくてかわいいお婆ちゃんが、このお店の店主だ。
「320円ちょうどね。はい、どうぞ」
お婆ちゃんからおにぎりを受け取って店を出ようとした時、
「いつもありがとね」と声をかけられた。
一瞬、溢れそうになった涙を、グッと堪える。
認知症になって、孫である私のことは忘れてしまったばぁちゃん。でも、"客として来る私"のことは、ちゃんと覚えているらしい。
私が孫だってことは、ばぁちゃんには秘密。
「いってきます……ばぁちゃん」
私は小声で呟いて、お店を出た。
