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第8話(後編) 障がい児支援事業を0→120名へ――開所から月間300まで、現場が走った1年間


目次

  1. プロローグ――はじめての朝、静かな7時

  2. 開所1週間で整えた“運営の骨格”

  3. 枠は10→20──“居場所”を崩さない運営設計

  4. 二足の草鞋の本音──公休日に講師業を続けた理由

  5. まとめ


1. プロローグ――はじめての朝、静かな7時


開所初日の朝。職員集合は8時45分だが、私は7時ちょうどに教室へ着いた。最初の仕事は建物の外回りの掃き掃除。落ち葉を集め、門扉を拭き、縁石に腰をかけてひと呼吸。続いて各部屋を回り、床を拭き、机と椅子の位置を整える。時計の秒針だけが聞こえる静けさのなか、私は椅子に腰かけ、心を整えるための短い瞑想に入った。
ここを「利用児童と職員の居場所」にするために、私は今日、どんな行動を選ぶべきか。
名案がすぐに降りてきたわけではない。ただ、胸のあたりが少し軽くなった。資料と備品をもう一度点検し、送迎表と個別目標カードを玄関脇のトレイに並べ、職員が来るのを静かに待つ。正直、当日の細部をすべて覚えているわけではない。何もかもが初めてで、時間は速くも遅くも流れた。ただ一つ鮮明なのは、玄関のドアが開くたび背筋が伸び、心の中で「ここはあなたの居場所ですと繰り返していたこと。――この日から私は、“今日をうまく回す”より、“明日も来たいと思ってもらう”ことを最優先にすると決めた。


2. 開所1週間で整えた“運営の骨格”

児童発達支援・放課後等デイサービス10名の多機能でスタート。初日の揺れを受け、1週間で“型”を固めた

  • 朝の3点ルール:①玄関の“迎え言葉”を統一(「ようこそ。今日の合言葉は◯◯です」)②個別目標カードの受け渡し③送迎担当へ“状態ひとことメモ”連携。

  • 15分ユニット化:活動を15分単位に区切り、切替合図(ベル/カード)を共通化。泣き・離席に流されにくい時間のフレームを作る。

  • KYT(危険予知)1日1枚:当番制で“ひやり”をスケッチ化→終礼で共有。安全を経験から共有知へ

  • 保護者リフレイン:帰りの数分で“今日のできた!”を3つだけ返す。専門用語は封印し、日常語で伝える。

“型”ができると、スタッフの表情に余白が生まれ、子どもたちの滞在リズムも落ち着いた。


3. 枠は10→20──“居場所”を崩さない運営設計

定員は1日10名→10+10の20名(児童発達支援+放課後等デイの合算)。私たちは毎日10名運用から始め、現場の布陣は児童指導員2名+加配2名=4名を基本とした。例外運用として、人員を1名増やせば日最大15名まで受け入れ可能。ただし3か月平均で1日13名を超えないことを条件に、無理な“瞬間最大風速”を出さないルールを設けた。数字を追うために居場所の温度を下げないための上限である。
日々のKPIは売上ではなく利用日数(child-days)で管理する。基準線は300=10名×30日。この300をフェーズ1の合格ラインと定め、ここを安定的に超え始めたら、直ちにフェーズ2準備へ移る。
フェーズ2の準備は“人を増やす”だけではない。

  • 採用は1.5倍規模を目安に前倒しし、シフトの“穴”を先に塞ぐ。

  • 2ライン制の時間割で動線を分離(静×動、学習×運動をぶつけない)。

  • 送迎・備品を二系統化し、遅延が全体に波及しない構造を作る。

  • そして同時並行で事前営業と予約づくりを強化する。

順番を取り違えると、人件費だけが膨らむ。“先に予約の列を作る→次に人を入れる”が鉄則だ。フェーズ2へ移れば、理論上利用日数は倍=600(20×30)を受け止められる。予約が伸び悩む局面では戦略で解く。特定曜日の集中施策(午後に個別療育を実施)、兄弟同時枠で保護者負担を下げる、短時間スポット枠(45–60分)で裾野を広げる――生活導線に寄り添った枠設計で需要を立ち上げる。数字は冷たい。だからこそ、数字の裏に“居場所”の温度を通わせる運営で受け止める。


4. 二足の草鞋の本音──公休日に講師業を続けた理由

講師業は障がい児通所支援の公休日に限って続けた。現実には、個人の“完全な休み”が消えることも意味する。体はしんどい。移動は長い。家族にも負担をかける。それでも続けたのは、講師の仕事を**“ライフワーク”**と位置づけていたからだ。現場で日々向き合う子どもや保護者の手触りを、講習会という公共の場で言葉にする。言葉にすることで自分の迷いが研がれ、迷いが研がれるほど、教室の意思決定が澄んでいく。二足の草鞋は、私の時間を削ったかもしれない。だが確かに、人間としての幅を押し広げてくれた。片方の現場で得た悔しさや歓びが、もう片方の現場で血肉になる。疲労と誇りが同居する、そのバランスの上で私は1年を走り切った。


5. まとめ(新稿)
開所初日の静かな7時に、私はほうきと雑巾で始めた。玄関を磨き、机を整え、短い瞑想で自分をまっすぐに戻す。「ここはあなたの居場所です」と何度も心の中で唱えながら、私は“今日を回す”より“明日も来たい”を選び続けた。やがて運営の骨格が育ち、10名の枠で利用日数300を丁寧に積み上げる日々が続く。数字が越え始めたところで、急がず、しかし迷わず、フェーズ2の準備へ踏み出す。予約を先に立て、人を迎える仕組みを二系統で整える。数字は倍になる。だがそれは、心の温度を下げる理由にはならない。私たちは“数字に居場所の魂を入れる”運営で受け止めた。
片や公休日の講師業では、疲労と引き換えに言葉が磨かれ、言葉に磨かれて現場の判断が強くなる。二足の草鞋は無理の象徴ではない。**「生き方を一つに縛らない」**という覚悟のかたちだ。こうして私は、居場所を育てる手と、社会へ届ける声の両方を手放さず、満席へ向かう二年間を歩いた。終わってみれば、数字よりも鮮明に残ったのは、玄関で交わした小さな「おはよう」と、帰り際の「また来るね」。その言葉こそ、私たちの運営のすべてだった。 

次回予告サマリー

第9話「“事故は文化”!? 安全衛生文化を育てる5ステップ」
福祉の現場でも、事故は「起こさない仕組み」と「起こらない空気」の両輪が要。
5つの実践ステップで、安全文化のつくり方を分かりやすくお伝えします。

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