見出し画像

第2部_#20(連載完) 全国600店舗マニュアル−『私がルール』


「よし、これを全国の店舗に、最短期間で展開しろ」

こうして表参道店は、
全国600店舗に展開するための“マニュアル”になった。

オープン翌日から、すぐに展開が始まった。
信じられないスピードで。


まずは、「色」。

当時のショップはバラバラだった。
ボーダフォンの赤、Jフォンの青や黄色。
店舗ごとにバラバラだった。

だから、「白とグレーにする」。

「オレンジはどうするんですか?」
「ピンクは?」
問い合わせが山のように来た。

でも、答えは変わらない。
「白とグレー」


600店舗を一気に動かすには、
絶対のルールが必要だった。

例外は、崩壊の始まりになる。
ひとつ許せば、全部が崩れる。

だから、迷いは排除した。

雪は言い続けた。

「これがルール」

ある意味、『私がルールだ』の状態だった。


600店舗を同時に動かすんだから、
絶対のルールを決めなければ、
全員が困る、進まない。

全員がルールにただ従えば、
失敗はしない。

自分のエゴを満たすためではなく、
最短距離で成功へ導くためだった。


が、これが通じない。

Aをして、Bの承認を得て、Cの予算を確認して……
茹でタコ課長が停滞させる。

あの時の、
孫さんと大手広告代理店の
コントみたいなことばかりが起きた。

(報連相?)

そんなんじゃ、間に合わないじゃん。
任せられてるんだから、
いちいち聞かなくていいじゃん。
覚悟を決めて、やってよ。


雪の思考は、
ゼロから積み上げるのではなく、

いつも最終の完成形から、
逆算する。

だから今、これをやる。
すごくシンプル。

茹でタコ課長が
なぜ「逆算」ができないのか、
雪には、ただ不思議だった。

なぜ止まるのか。
なぜ迷うのか。

待っていたら、600店舗なんて絶対に回らない。

雪は、どんどん「仕組み」を作った。
表参道の店を、
そのまま全国にコピーするための仕組み。

雪が一番楽しかったのは、
デザインじゃない。
仕組みを作ることだった。

誰がどう動いて、
どうやって店が完成するのか。
頭の中で全部シミュレーションする。

「あ、この作業はいらない」
「ここでこれを入れれば、間違えない」
無駄を削って、流れを磨く。

それが、一番楽しかった。


メインサイン、什器、壁面パネル。
カウンターも分解して、パーツ化する。
「2つ」「3つ」と選べば成立するようにする。
備品も同じ。

クリックすれば、
数も、見積もりも出る。

目指したのは、
「ショッピングサイト」だった。

現場では、組み立てるだけでいい。
考えなくていい。

作ったのは、
「IKEAの組み立て説明書」だった。

それまで、
個人のセンスに頼っていたデザインを

誰でも成功できる
仕組み(システム)へと書き換えた。

誰が図面を書いても同じになるように、
細かくマニュアル化した。

設計会社が図面を作る。
いや、設計なんて大それたものではない。
内装を齧ったことがある人なら
誰でもたったの数時間でできる。

書いたら、確認の申請をする。

それを、雪が見る。

OKなら「承認」次へ進む。
ダメなら差し戻し。

雪の「承認」が降りなければ進めないシステム。

この流れをパッケージ化した。

だから、間違えようがない。

雪の仕事は、
インターネットさえあれば、
どこにいても、
ポチっと「承認」。

楽しかった。


今でこそ、当たり前だが、
二十年前にこのシステムは、
社員からすれば、
許せない怠慢に見えていた。

何が大変って、茹でタコ課長。
承認欄に、印鑑がないことを恐れた。

20年前のオフィスにおいて、
印鑑は単なる確認印ではなく、
「権力の階段」だった。

雪は仕方なく、
印鑑画像をつくって枠内にはめた。

何がなんでも、
紙をプリントアウトすることを阻止した。


雪はフローを改善し、
一斉メールで通達する。
問題が起きるたびに、大元の原因を潰す。

一方で、茹でタコ課長は変わらなかった。

相変わらず、
旧式の考えから抜け出せず、
外部スタッフを五人も連れてきては、
問題をひとつずつ解決していた。

前例がないなら、
前例になればいい。

何が怖いのか、
何ができないのか、
雪には全くわからなかった。

「同じことを600回やるの?」
雪には、ただ不思議だった。


店舗開発の空気は、ずっとピリついていた。

しかし、店舗開発の上司は課長。
この業務フローだって、
「課長が考えたこと」になっていた。

……くだらない。

誰の手柄でもいいけど、
(早く動け、頭使え、考えろ。)
雪は、そう思っていた。


目の前の「一店舗」を
必死に抱え込む茹でタコ課長。

対して、全体の「600店舗」を
仕組みで解こうとする雪。


同じ景色を見ているはずなのに、
茹でタコ課長と雪の間には、
埋められない『逆算の溝』があった。


最短距離で最低労力、
成功へ導くことだけに、
雪は、全てを注いでいた。


第2部・完


ノンフィクションの連載は、 ここで一旦の幕引きです。

100円のシャーペンから、
怪物の懐で暴れ回ったソフトバンクの黎明期の記録。

お付き合いいただき、ありがとうございました。


これからは、少しスタイルを変えてお届けさせていただきます。

2026年の今の私から、
あの狂乱の黎明期を、
振り返ってみようと思います。

雪も知らなかったことだったり、
なるほどね、だったり、
パズルが嵌まったり、
過去を再発見していくドキュメンタリーです。


令和の今では絶対にアウトな、
面白く狂っていた平成のネタも。
毒は少し濃くなるかもしれません。

そして、あの石垣島……。
「なんだったんだろう?」
還暦を迎える今、
ようやく自分を受容することができました。


投稿のペースは少しゆっくりになりますが、
どうぞ、これからも「真鍋 雪」を応援してください。


この物語が、今どこかの暗闇で息を潜めている方たちの、そして自分を失いかけている「誰か」の救いになりますように。

この物語は、雪の記憶と視点に基づいており、
登場する組織や人物の描写は、その時の受け止め方によるものです。

雪の不器用で必死な歩みに何かを感じていただけたら、「スキ」や「フォロー」、「コメント」で応援していただけると、とても心強いです。


『ソフトバンク黎明期・孫正義を唸らせるまで──35年間の全記録 真鍋 雪』





いいなと思ったら応援しよう!