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オーシャン・ドッグス4🐉 第2話:寝てるだけでファン増やすって

神戸港が近づく。

潮の匂いに、油の匂いが混ざる。

遠くでトラックが走り、カモメが鳴き、朝の港がもう動き始めている。

いつもの神戸や。

その、いつも通りが、かえって胸に刺さる。

シバゼロが着岸すると、整備班が一斉に駆け寄ってきた。

その先頭にいるのは、片桐ススムやった。

片桐はシバゼロを見上げたまま、しばらく言葉を失う。

焼けた船体も、ひしゃげた縁も、ひとつずつ目で追ってから、ようやく口を開いた。

「よく戻った」

でも、そのあとすぐ、顔をしかめる。

「けど、これは無事に帰ってきたで済ませていい傷やない」

ルークが小声で言う。

「第一声はやさしいのに、第二声でもう現実」

あんこも小さくうなずく。

「片桐さん、そういうところある」

りうくんが船体を見上げる。

「そういうところ、で片づけるには穴が多いけど」

アンが船を降りる。

足がふらつく。

それでも前足を踏ん張って立つ。

「片桐さん、先に神戸どうぶつ王国や。カメポン、起こしに行く」

その言葉で、空気がきゅっと締まる。

神戸どうぶつ王国の奥。

一般のお客さんの目が届かへん、静かな管理室。

そこにカメポンはいた。

石になった大きな海亀の姿のまま、海の色をした布の上で眠っている。

動かへんのに、そこにいるだけで部屋の真ん中になる大きさやった。

光はやわらかく、水温も湿度もきっちり管理されていた。

水の匂いと、あたたかい機械の音がして、この部屋だけ時間がゆっくり流れているみたいやった。

若い飼育員さんが頭を下げる。

「毎日、状態を見ていました。動いてはいません。でも、ここにいる感じは、ずっとありました」

年配の飼育員さんが、そっと笑う。

「王国のみんな、もう勝手に家族みたいに思ってます。朝いちばんに声をかける子もいますし、帰る前に手を振る子もいるんです」

ルークが石のカメポンを見上げる。

「寝てるだけでファン増やすって、ちょっとずるいよね」

アンは石の甲羅に前足を置いた。

冷たい。

でも、知ってる感触や。

あの日、明石の浜で抱いた小さなぬくもりが、その冷たさの奥にちゃんと残っている気がした。

赤いスカーフ。

小さい声。

黒い目。

砂をかく前足。

アンは石の甲羅をそっとなでた。

「待たせたな。起こしに来たで。今日は、ちゃんと帰ろうや」

その声は、強いというより、家族を迎えに来た声やった。

ルナが前へ出る。

小さな前足は少し震えている。

でも、その震えをごまかさへん強さがあった。

「今度は、ちゃんと戻す」

あんこが小さくうなずく。

「ルナならできる」

りうくんが、石のひびひとつない甲羅を見て言う。

「失敗はない。そういう顔してる」

ルナが少しだけ笑う。

「プレッシャーのかけ方が、やさしいんだか怖いんだかわからないね」

リッチーが肩をすくめる。

「今のは応援だろ」

ルークが口をはさむ。

「いや、あれは九割応援で一割圧だな」

アンがすぐ返す。

「細かい配合まで実況せんでええねん」

リョーマが短く言う。

「任せたぜよ」

管理室の空気が、ぴんと張る。

風が一瞬、止まった。

つづく