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オーシャン・ドッグス4🐉 第6話:胸の中にスースー風入ってる感じや

神戸の港には、昼の光がゆっくり広がっていた。

朝の騒ぎがうそのみたいや。

クレーンは高い空をつかむみたいに立って、トラックはいつもの顔で走っていく。

潮の匂いに、金属の匂いと、港のごはん屋さんのだしの匂いまで混ざっていた。

でもアンの胸だけは、まだざわざわしていた。

頭の上では、カメポンが小さく座っている。

さっきまで石やったとは思えへんくらい、あったかい重さや。

「ほな、ここでいったん解散や」

アンがそう言うと、みんながそれぞれの帰り道へ目を向けた。

リッチーは、長い鼻先を少し上げて、港の風を吸いこんだ。

その横で、小さなルークが胸を張る。

「久しぶりに片桐さんの家のごはんだ。今日は絶対、おかわりする」

リッチーが笑う。

「おまえ、すでに二杯目の顔してるぞ」

ルークはすました顔で言う。

「小さい体に夢がつまってるからね」

アンがすぐ返す。

「便利な言い訳みたいに言うなや」

ふたりが向かうのは、片桐ススムの家や。

船の傷にはめっぽう厳しいのに、ワンコ相手やと毎回ちゃんとしゃがんでくれる。

あの人の家やった。

あんこは少しだけ荷物を整えて、静かに言う。

「私は徳之島へ戻る。ゲンゾウさんに会ってくる」

ゲンゾウさんの名が出た時だけ、あんこの声は少し低く、まっすぐになった。

それだけで、どれだけ大事な人かわかる。

アンはうなずく。

「ゲンゾウさんに、うちもまた会いたい言うといて」

あんこがほんの少しだけ笑う。

「たぶん、言う前にわかってるよ」

ルナは、ふわふわの毛並みを風に揺らしながら、りうくんのほうを見た。

「じゃあ、いこうか」

りうくんも静かにうなずく。

「鹿児島、久しぶりだな」

身寄りのないリョーマだけは、少し離れた場所で海を見ていた。

帰る家の匂いより、会いに行く相手の影が背中にのっている。

アンが近づく。

「リョーマ」

リョーマは振り向く。

「青島へ行く。インフェルノに会うてくる」

短い言葉やった。

でも、その中に、ちゃんと会いたい相手の重さがあった。

アンはふざけへんかった。

ただ、まっすぐ言う。

「帰る家があるやつも、会いに行く相手がおるやつも、みんなちゃんと帰ってこいよ」

リョーマが、ほんの少しだけ口元をゆるめる。

「おう」

頭の上でカメポンが、仲間たちを見送るみたいにきょろきょろしている。

アンはその小さな前足が、自分の耳にふれるのを感じた。

「おまえも見送り係か」

カメポンが小さく言う。

「みんな、いく」

「せやな。でも、また帰ってくる」

アンはそう言うて、みんなの背中を見送った。

あんこの白い背中が先に角を曲がり、ルナのふわふわしたしっぽがそのあとで揺れる。

りうくんは振り向かんまま片耳だけ動かして、リッチーはいつもみたいに姿勢よく歩く。

小さなルークは胸だけは誰より張っていて、リョーマの背中は最後まででっかかった。


港の風が、少しだけ広く感じた。

「静かになったなあ」

アンが言うと、カメポンが頭の上で小さくうなずいた。

「ちょっと、さみしい」

アンは苦く笑う。

「わかるわ。うちも今、胸の中にスースー風入ってる感じや」

でもそのさみしさの底には、ちゃんと戻ってくる約束がある。

それが、昨日までのひとりの旅と違うところやった。

つづく