オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第24話:アンのにおいが…
海底の洞くつは、街ひとつ入るんちゃうかと思うくらい大きかった。
削られた壁に、青黒く光る龍石がまだらに埋まっている。
その足元で、人々が小さなツルハシを振っていた。
豪華客船から連れてこられたお客さんたち。
センチネルの人々。
そして、アンの家族。
モモは大人に混じって、小さなスコップで土をかき出している。
ヨシタカパパは腰をかがめて、別の人の荷物を持ち上げていた。
リョウコママは、咳をしている人に水を分けようとしている。
そのずっと奥。
ひときわ奥まったところで、アンの母、ユズキが静かに立っていた。
額には汗、足元には崩れた石の山。
それでも、姿勢だけはしゃんとしている。
「アン…」
ユズキの鼻が、海の水越しにぴくりと動いたように見えた。
「…アンちゃん」
リョウコママの声が、かすかにこぼれる。
「アンの、においが…」
その瞬間、洞くつ全体がピンと張りつめた。
頭上の大きな龍石から、黒い光が一気に流れ落ちてくる。
「目ぇ閉じろ!」
りうの叫びと同時に、洞くつの天井から巨大な単眼が現れた。
ニーズヘグの“心の目”。
水と石の間に浮かぶ、深い黒の玉。
そいつが、アンたちを見下ろす。
胸の内側に、冷たい輪がまたカチッとはまる。
肩、首、尻尾、足。
体のあちこちに見えない枷がはまり、動きが少しずつ奪われていく。
「くっ…!」
リョーマが歯を食いしばる。
「前に谷でやられたやつと同じ…いや、それ以上ぜよ!」
ルナの息が短くなる。
「駄目、間に合わない…」
黒い光が、囚われた人たちの目にも入り込む。
センチネルの人々の手が、ツルハシを握ったままピタリと止まる。
モモの小さな手もふるえ、スコップがぽとりと落ちた。

その時だった。
海の奥から、別の歌声が届いた。
ひとりの声が、波に乗って近づいてくる。
それに、たくさんの声が重なっていく。
高い声、低い声。
イルカの甲高い声。
クジラの長い声。
遠くの貝殻をたたくような、コトンという響き。
「この声…」
アンの耳がぴくりと動く。
「ルーシー…?」
つづく
