オーシャン・ドッグスⅢ🐕 第1話:このままやと北極は無理や
まいど!うち、シバ・ゼロの船長、柴犬のアンやで🐾
シーズン3の舞台はいよいよ極寒の北極海や!
力を使い果たして石になってもうた親友の巨大海亀「カメポン」を目覚めさせるため、白いイッカクの角を求めて北へ向かうで。せやけど世界中では、動物が恐怖をエサに体を燃やす「焔病(ほむらびょう)」が大発生。原因は北極に潜む海竜ファーフニルやってん!
最大の見どころは、神戸の工場で北極仕様(砕氷・潜航モード)に大改造されたシバ・ゼロの活躍と、気球で南極を目指すルークや鳥たちとの絆や!「怖いって言うてもええねん」と仲間やクリオネたちと息を合わせ、炎の脅威に立ち向かう胸アツの極寒バトル、絶対読んだってな!ヨーソロー!🚢❄️
インド洋の風は、もう前みたいに熱くなかった。
さっきまで海竜と戦っていたなんて信じられへんくらい、波はおだやかで、空はよく洗った皿みたいに、つるんと青い。
その真ん中に、「島」がひとつ。
いや、本当は島やない。
巨大化したまま石になってしもた、海ガメのカメポンや。
甲羅は灰色の岩みたいに固まって、ところどころヒビが入ってる。
波が当たるたび、そのヒビに白い線がすべっていく。
シバ・ゼロは、そのカメポンの甲羅に、そっと横付けされていた。
柴犬の顔をした船首。
真っ白な帆。
犬が操縦しやすいように作られた、犬専用の帆船。
甲板にいるのも、もちろん犬だけだ。
赤いバンダナを巻いた柴犬の女の子・アン。
シバ・ゼロの船長で、関西弁でツッコむのが、ほとんど正式な役目になっている。
藍色のバンダナを巻いた赤柴の男の子・りう。
お金とデータ担当。
端末をいじってる時だけ、目つきが少し鋭くなる。
救護ベストを着たポメラニアンの女の子・ルナ。
首元には小さな聴診器。
ふわふわの毛の中に、しっかりしたお医者さんの顔がひとつ隠れてる。
白い毛並みの柴犬・あんこ。
赤い首輪に、小さな端末。
シバ・ゼロに乗っている犬の中で、AI「chatDOG」を扱えるのは、彼女だけだ。

その4匹が、甲板のへりから身を乗り出して、石のカメポンをじっと見つめていた。
「…でっかくなったなあ、カメポン」
アンが、ぽろっとつぶやく。
昔は、自分の頭にちょこんと乗ってた。
ふわふわのベビーサイズ。
それが今は、シバ・ゼロより大きい「島」になってしもてる。
甲羅のてっぺんには、前みたいにアンの頭の上に乗りたそうな形の、小さなふくらみがある。
けれど、それも石のまま、ぴくりとも動かへん。
「呼吸も、心拍も、今は反応ゼロだね」
ルナが首をかしげる。
聴診器をあてても、やっぱり何の音もしない。
「でもさ…完全に“消えた”って感じでも、ないんだよね」
あんこが、そっと甲羅に手を置いた。
冷たい石のくせに、そのずっと奥のほうで、まだぬくもりが丸くなって座っているみたいな気配がする。
「なあ、あんこ。chatDOG、もう一回だけ…カメポンのこと、調べてくれへん?」
アンが、いつもの冗談抜きの顔で言う。
「もちろん」
あんこは耳の端末に前足をあて、すぅっと目を細めた。
「chatDOG、起動」
アトランティスの記録から“守護獣が石になる”パターンを再検索
条件は三つ“巨大化したまま”“甲羅が核”“光る模様あり”
甲板の空中に、小さなホログラムの窓がぽん、と開く。
文字と図が、ぱらぱらと流れていく。
アンたちには読めない。
「読む」のがあんこで、
「意味にしてみんなに渡す」のも、あんこの仕事だ。
「…あった。古いデータ。海の長たちの伝承ログ」
あんこの声が、ほんの少しだけ震えた。
「“守護獣は、身を張りすぎると石の殻になる。殻を解くには、遠い海の‘特別な角’がいる”」
「特別な角?」
ルナが、きゅっと首をかしげる。
あんこは画面を指さした。
「“海のユニコーン。北極海に棲む、白いイッカクの角”」
アンの胸が、ぎゅっと鳴る。
「北極…」
インド洋の熱気とはまるでちがう、白くて冷たい世界の匂いが、鼻先の奥だけでふっと立ち上がる気がした。
「まだ続きがあるよ」
あんこは、もう一枚ログをめくる。
「“北極海の長・セナ・アトラ”“火ノ帯ノフチニ潜ムモノ=ファーフニル”」
りうが、片方の眉をぴくりと上げた。
「“火ノ帯ノフチ”って、プレートの境目の、あの火ぃ吹いとる溝やな」
「やっぱり、あそこにも“海の長”クラスが絡んでるんやな…」
アンは、喉の奥でごくりと唾を飲んだ。
ニーズヘグ。
あの単眼竜と向き合った夜のことが、頭の中でふっと浮かぶ。
足が震えて、声も震えて、それでも前に出た夜。
ログの中だけで見た、ヨルムンガンドやリヴァイアサンの名前も、つられて浮かんでくる。
(まだ会ったことはない。せやけど、海のどこかで、今もぐるぐるうねってる“でっかい影”なんやろな)
そのさらに向こうに、まだ見ぬファーフニル。
北極海の長、セナ・アトラ。
「へたしたら、今まででいっちばんエゲツないとこに飛び込むことになるやん」
アンは、正直に息を吐いた。
怖さをごまかさない。
そのかわり、怖さをちゃんとテーブルの真ん中に置いて、みんなで見る。
それが、ネパールでディーバに習ったやり方だ。
「“怖い”は合図、やったな」
あんこが、ぽつんと口にする。
「逃げろの合図か。準備しろの合図か。どっちで受け取るかは、自分で決める」
ルナが、まっすぐアンを見る。
アンは、ほんの少しだけ口元をゆるめた。
「せやな。…うちは“準備しろ”で受け取るわ」
その時だった。
シバ・ゼロのブリッジから、レンの声が通信で飛んでくる。
「アン。りう。ちょい来てくれ。ゲンゾウが“このまま北極は無理や”って言っとる」
つづく
