オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第19話:本日“ニコニコ税”2倍デーやで
夜がほどけきる少し手前。
祠の前に白い息が集まって、谷川の音がトン、間、トン・トンと拍(リズムの数え方)を刻んでいた。
地面には薄い霜、空はうす金の手前。
小さな木鈴と水鉢、それから白いチョークの粉で引いた練習ラインが用意されている。
ディーバが祠に頭を下げ、こちらへ向き直る。
山色の毛並みに、磨かれた木札がさや、と鳴った。
「今日から“鈴の10課”。やることは3つだけや。
ほどく(呼吸)/切る(火は線)/守る(面=ひろがり)。言葉は短く、手は丁寧に」
崖上のほうから、ちびっ子たちの声が飛んでくる。
「がんばれー!」
「親指グー!」
ビノードの屋台があったかい湯気を上げ、ニコニコ税(=笑顔でおかわりOK)の看板が紙コップの横でひらひらしている。
アンは尾を1回だけ上下させた。
「焼かんで通す。切り開くのは、うちや」
りうは顎を引いて、短く号令。
「急ぐために丁寧に。拍、全員そろえよう」
ルナは息を整え、がんばる子たちへ目で笑う。
「怖さはブレーキ。私が外すから」
リョーマは肩を回す。
「正面から押し返すがぜよ」
あんこは親指グーを高く掲げた。
「本日“ニコニコ税”2倍デーやで」

課題1:拍の息(ほどきの呼吸)
木鈴に触れると、冷たさで指がしゃんとする。
2-1-2で吸って、ちょい間(ま)、吐く。
1回目、アンとりうのタイミングがずれて、鈴がチグハグ。
「『せーの』って言うてる間に、もうズレとる」
ディーバが笑う。
「息は“音”やのうて“間”。間が合えば、手は勝手に合う」
アンは鼻先を小さく上げた。
「拍、取り直し。もう1回や」
2回目はマシ。
3回目、木鈴がトン、間、トン・トンでぴたり。
川音と重なり、胸の奥までコツンと届く。
課題2:火は線(当てずに切る)
焚き火の端で、アンが“火の糸”を引く。
最初は太すぎて、落ち葉がじゅっと焦げた。
「焦げ臭い、ストップ!」
ルナが即止め、りうがチョークで“通したい道だけ”細く描く。
アンは深く息。
「狙いは紙1枚。削って、残す」
2回目。火の糸が落ち葉の縁だけをすっとなで、熱も焦げも残さず通り抜ける。
アンの目に、ひとつ光が灯る。
「通った。焼かずに切れた」
課題3:水は面(迎えて受ける)
水鉢の前。ルナが掌で風を送り、水面に薄い幕をつくろうとする。
最初は穴だらけで、ぴちぴち飛沫が頬に当たる。
ディーバが短く。
「“面”は広げて待つ。押し返すな、迎えにいけ」
ルナはうなずく。
「受けて、流して、残す。せーの!」
3回目。
つるりと1枚の水膜。
指で押せば、やわらかく受け止めて、形を戻す“水の盾”。
課題4:視線ほどき(こわばり解除)
単眼の絵を描いた木札を、ディーバが掲げる。
見るだけで肩がきゅっ。
短い金縛りのきしみ。
アンは2-1-2で息を刻み、「肩→肘→指」の順にほどく。
「怖いは合図。合図を辞書に変えたら、もう怖くない」
リョーマは力み過ぎて奥歯がぎり。
「力は抜いて通せ」
ディーバが軽く頬を弾くと、リョーマの足がすっと前へ出た。
失敗→笑い→修正→小さな成功。
鈴と水音と息づかいが、だんだん同じ歌になる。
つづく
