オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第26話:うちらは海を奪いに来たんちゃう
「リッチー、殻!」
りうの合図に、リッチーが前脚を振り上げる。
「雷の殻、オン!」
透明な殻が、海の上に半球を描いた。
黒い波がぶつかるたび、殻の表面でぎゅうっと縮み、光と音が中へ吸い込まれていく。
「ため込みすぎたら、お腹こわすで」
ルークが言うと、リッチーが歯を見せて笑う。
「このお腹は“倍返し専用タンク”や。ちょうどええ具合に熟成させたる」

アンはスサノオの回路をひらいた。
胸のチャームが熱くなる。
「スサノオ、今は焼かん光でええ。動き止める、一瞬だけ貸して」
喉の奥に光がたまる。
アンはニーズヘグの単眼をにらみつける。
「真実の光、まぶしいの1回だけや。ちゃんと見とき」
光が走った。
焼かないけれど、まっすぐ刺さる光。
ニーズヘグの目の奥に、島の人々の本当の顔が浮かぶ。
笑った顔。
眠る子どもを見守る目。
波打ち際で踊る足。
黒い糸が、その上から乱暴に引っかかっている。
アンの光が、糸だけを照らしていく。
「思い出せ。あんたらの“最初の名前”や。ニーズヘグの鎖なんかより、ずっと先にあったもんや!」
ルーシーと海の歌で一時的に攻撃を封じられたニーズヘグは、吠えた。
「フカミ ノ モノ…オマエラ ガ ナニヲ カエル」
声は水ごと震わせるように低く、言葉はところどころカタコトなのに、意味だけははっきり刺さってくる。
「ウミ ハ…ウミノ竜 ノ モノダ。リク カラ ノ シンニュウ…ユルサヌ。オマエラ ノ フネ…鉄ノカワ。
街モ 桟橋モ…波ノ上ニ ヌリツブシタ キズダラケ ノ 皮ニ スギヌ」
ニーズヘグの単眼が、ギラリと細くなる。
その奥で、別の影がうごめいた。
まだ目を開けていない、もっと大きな“何か”の気配。
「深海ノ オクデ…リヴァイアサン ガ 息ヲ スル。マダ 完ゼンニ ハ 目覚メヌガ…時ハ 近イ。オレ ノ 他ニ モ 3匹」
極ノ氷ノ下ニ 眠ルモノ
火ノ帯ノ ふちニ 潜ムモノ
深キ谷ノ 影ニ トグロヲ 巻クモノ
「4匹ノ海竜ガ 目ヲ 開ケバ…ウミ カラ リクヘ ノ 進軍 ガ ハジマル」
りうが小声でつぶやく。
「四天王、あと3匹、おるってことか…」
ニーズヘグの声は、さらに重くなる。
「ワレラ ハ キョウリュウ ノ ナガレ。星ヲ オオッタ 大イナル影 ノ 生キ残リダ。モトモト ハ リクデ メダチ、空ヘ ノボリ、人間 ナド 名ノル 前ニ…チキュウ ノ 王ニ ナル ハズダッタ」
「ダガ 星ノ石 ガ 落チ…ワレラ ハ 深ミニ オイオトサレタ。寒サト 闇ニ 耐エ、ツメトウロコヲ 変エ、進化 シタ キョウリュウ ハ…今ヤ 人ヲ 凌グ」
「今度ハ フカミ カラ ダ。ウミヲ デンセンシ…リクヲ 削リトリ…再ビ 地球ヲ 作リ直ス。
オマエラ ノヨウナ 小サキ イヌ…人間 ノ玩具 ガ、ワレラ ノ 邪魔ヲ スル 権利 ナド ナイ」
海水が、ニーズヘグの言葉に合わせてぬるりと揺れる。
黒い胴体が、島と〈シバ・ゼロ〉の間で大きく弧を描いた。
「ウミハ ワレラ ノ モノ。リク カラ ノ 侵略 者ハ…
皆 オナジ ダ。観光船モ、軍艦モ、“守ル”ト カタル 人モ」
「オマエラ ハ イツモ、自分ノ都合デ 海ニ 来テ、ノコギリデ 切リ、毒ヲ 流シ、音デ 汚ス。
侵略者 ハ…オマエラ ノ ホウダ」
アンは、胸の奥まで冷たくなるのを感じた。
けれど、その中で、別のものがじわじわ熱くなる。
「…ようしゃべるな、でっかい蛇」
カメポンはアンのアタマに足をふんばって、ニーズヘグをにらみ返した。
「地球の王やの、海の王やの、肩書きばっかり並べよって。“昔はすごかった”って自分で言うて回るん、だいぶダサいで?」
ニーズヘグの単眼が、ギロリと細くなる。
「キサマ…」
「うちらはな、海を奪いに来たんちゃう」
アンは一歩、前に出るように体を乗り出した。
つづく
