オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第33話:昭和の大人が勝手に燃えてくれるやつ
同じころ。
〈シバ・ゼロ〉の甲板には、冷たい風が吹いていた。
アンは、船べりから身を乗り出すようにして、水面を見つめていた。
どれだけ呼びかけても、カメポンの返事は返ってこない。
「カメポン……聞こえる? 返事してや……」
胸のチャームは静かだ。
2-1-2の足拍も、今日は重たい。
ルナがそっと、その横に立つ。
「無理に笑わなくていいよ。泣きたいときは、ちゃんと泣いて」
「泣いてる時間、もったいないやん。カメポン見つけるほうが大事や」
そう言いながらも、アンの声は少し震えていた。
あんこが端末を握る手に、力を込める。
「やれること、全部やる。まずは世界じゅうに“カメポン捜索プロジェクト”発信する」
りうがうなずき、すばやく指示を飛ばす。
「ハッシュタグは『#カメポンをさがせ』『#2-1-2の拍』『#海のヒーロー』。各国語版、同時に上げるで。短い動画がええ」
リッチーが耳をぴんと立てた。
「動画素材なら、山ほどあるで。あいつが初めてアンの頭に乗ったときのやつ、ニーズヘグに乗り上がったときのやつ、雷の中を突っ切ったときのやつ」
「迷わず“全部”編集やな」
あんこが即答する。
「タイトルは……カメポン・マーチ
(世界でいちばんちいさなヒーロー)」
ルークが小さく吹き出した。
「世界一ちいさいのに、やることは怪獣サイズってな」
ルナがすばやく補足する。
「歌もつけよう。リズムは2-1-2。覚えやすくて、みんなが口ずさめるやつ」
「元ネタは“ガメラのマーチ”やな?」
りうがニヤリ。
「昭和の大人が勝手に燃えてくれるやつ」
「オマージュや、オマージュ」
リッチーが笑う。
「SUNOさん、出番やで」
あんこが端末に向かって、てきぱきと指を動かす。
カメポンの活躍シーンをつなぎ、歌詞を整理し、リズムを合わせる。
やがて甲板に、小さなスピーカーから試作版が流れだした。
カメポーン カメポーン
がんばれカメポン
がんばれカメポン
がんばれカメポン
朝 昼 夕 夜 朝 昼 夕 夜
深海ゆらす 古代のうたで
こぼれた涙 ぜんぶひろって
ひかった うけとめた パンパンパン
雷の殻で はじき飛ばせ
がんばれカメポン
がんばれカメポン
がんばれカメポン
アンの耳がぴくっと動く。
「ずるいわ。こんなん、泣かへんほうがおかしいやろ」
リョウマがむずがゆそうに空を見上げた。
「わしも、ちいさいころ“ガメラ”で育ったきに……
ガメラ世代への直撃やちや。涙腺ジェット噴射ぜよ」
動画はすぐにアップされた。
タイトルには、世界共通のハッシュタグが並ぶ。
数分もしないうちに、再生回数の数字が目に見えて跳ね上がり始めた。
コメント欄が、次々と流れていく。
「昭和の怪獣映画で育ったけど、これは反則だろ…」
「子どものころ映画館で泣いたおっさんが、また泣いてます」
「うちの国にも訳して!」
「翻訳やったよ!」
世界中のファンが勝手に歌詞を訳し、各国語版カメポン・マーチが次々と生まれていった。
英語、フランス語、スペイン語、インドのことば。
どの国の子どもたちも、2-1-2のリズムだけは同じだ。
アンが不思議そうにつぶやく。
「世界中で“トン、間、トン・トン”が鳴ってるんやな……」
ルナがにっこりした。
「拍は言葉いらないからね。心臓のリズムと一緒だもん」
数日後。
インド洋には、いつもとちがう光景が広がっていた。
各国の潜水艦や調査用の潜水艇が、事前協定に従って一定の距離を保ちながら集まっている。
軍旗よりも、救難用の旗が多い。
漁船も集まり、網の代わりに“願い”を海へたらしていた。

「2-1-2の音がしたら、すぐ知らせてくれ。
どこの国の船でもかまへん。拍でつながろ」
りうが無線に向かって言うと、あちこちの船から短い返事が返ってくる。
「了解」
「ロジャー」
「OK」
「サー」
あんこは、世界中のSNSから届く情報を端末で束ねていた。
「世界中の子どもたちが“カメポンを探してる写真”上げてくれてる。砂場で2-1-2の足跡つけたり、お風呂でゴムのカメ浮かべたり」
アンが少し笑う。
「海のど真ん中やのに、なんか、めっちゃ“見守られてる感”あるな」
そのときだった。
ソナー担当のクルーが、短い叫び声を上げる。
「船長! 深度3000で、一定間隔の“コン、間、コン・コン”を感知!」
「2-1-2や!」
りうが振り返る。
アンの胸のチャームも、同じリズムでかすかに鳴り始めた。
「カメポン……!」
つづく
