オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第25話:アホや…遠距離応援でよかったのに
洞くつの天井近くの海が、ふっと明るくなった。
光のカーテンを切り裂くように、長い影が滑り込んでくる。
一匹の小さなウミガメ、その小さな影。
その周りを、イルカやマンタ、カジキやシャチが取りまき、泡の線を引きながら回っている。
先頭には、人の上半身と魚の尾を持つ人魚の少女。
丸いメガネと、赤いリボンを結んだ海藻のヘアバンド。
「アン…来たよ」
ルーシーだった。
日本の浜辺で別れたときと同じ、やさしい目。
けれど今は、背中に古い貝殻のペンダントと、歌で光をまとっている。
その前で、ウミガメが「ふん」と鼻を鳴らした。
頭の上には、いつものちいちゃい甲羅。
「…カメポン?」
アンの声が震える。
「ママ」
カメポンがにこっと笑った。
「日本の海で、ルーシーさんと一緒にお願いしてきた。クジラさんも、イルカさんも、魚さんも、“アンたちを手伝うよ”って。だから連れてきた」
「来てくれたんか…」
アンは頭を抱えたふりをして、ぎゅっと抱きしめる。
「アホや…遠距離応援でよかったのに、直参してきよった…!」

ルーシーが歌を少し強くする。
そのたびに、ニーズヘグの黒い光のふちが、じわじわ白く泡立つ。
さっきまで体を縛っていた冷たさが、完全にほどけていくのが分かった。
「アン。ピンチのときは、仲間を呼びなさいって言ったでしょ。日本の海も、ちゃんと聞いてたよ」
アンは大きく息を吸った。
もう、足は動く。
尻尾も振れる。
「…せやな。うちは一人で全部抱え込むクセある。けど今日は、素直に言うわ」
アンはルーシーとカメポンを見て、大声で宣言した。
「来てくれて、ほんまありがとう。ここからは、みんなでニーズヘグ倒すで!」
ルーシーが歌を強めた。
その歌は、半魚人たちの古い記憶の底に眠っていた、アトランティスの古代の歌だった。
沈んだ都で、何度も海を守ってきたという“封じの歌”。
ルーシア ルーシア
ウンダ マリヤラ イース ノウァ
サラ ウルミーナ ハンバ ハンバリア
ランダル ウンラナ
トゥルナ カイ ラ セレーヌ
ルーシア ルーシア ルーシア ルーシア
「ルーシア」=海がルーシーを呼ぶ時の“古い名前”
「ウンダ マリヤラ」=波よ、やさしく包んで
「イース ノウァ」=新しい朝をひらけ
「サラ ウルミーナ」=深い傷を洗い流して
「ハンバ ハンバリア」=恐れを連れていって
「ランダル ウンラナ」=迷子の心に道を
「トゥルナ カイ ラ セレーヌ」=静かな光へ導いて
半魚人たちも胸に手を当て、ルーシーに合わせて声を重ねる。
低い声、高い声、波の音。
いくつもの音が重なって、海そのものが一つの楽器になったみたいに震える。
歌とアンの光とで、ニーズヘグの“手綱”は少しずつほどけていく。
黒い光が凍りついたみたいに動きを止め、次の攻撃がしばらく撃てなくなる。
「今や! 歌がくれた“間”は長くないで!」
りうが叫ぶ。
海の仲間たちが、アンたちのまわりに並んだ。
カメポンはアンの頭に飛び乗る。
りうはカジキのマーリンへ。
ルナは滑るようにマンタの背へ。
リョーマはシャチの背でどっしり構え
あんこは白イルカに抱えられ
リッチーはハンマーヘッドの背で牙を光らせる。
ルークはタツノオトシゴの背に、奇跡のバランスでまたがる。
「ちょ、なんで俺だけタツノオトシゴやねん! 絶対“見た目枠”やろ!」
ルークが叫ぶと、タツノオトシゴがぷいっと横を向いた。
アンが笑う。
「似合っとるからしゃあない。ほな、海の遊園地開園や」
ルナが真顔に戻る。
「遊園地じゃない、救出作戦。全員、拍そろえて」
ニーズヘグが大きく身をくねらせる。
黒い胴体が島の周りをぐるりと囲む。
「なんか遊園地のアトラクションみたいなメンツやな…」
リッチーが思わずこぼす。
「でも今日のは“命がけコース”や。しっかり掴まっとき」
ルーシーが右手を上げ、歌を一段と強くする。
その歌が、“合図”になった。
「行くで!」
アンが叫ぶ。
「海からのりこむ、ワンワン騎兵隊や!」
海の仲間とともに、アンたちはニーズヘグの胴体へ向かって一斉に突っ込んだ。
カジキのマーリンが速さで翻弄し、マンタが広い背で矢のような水流を受け流す。
シャチが牙で黒い鱗の隙間をこじ開け、ハンマーヘッドが硬い頭で龍石の柱を砕いて、通路を作る。
タツノオトシゴがすばやく動いて、囚われた人たちと矢や瓦礫の間に小さな流れを作る。
白イルカは、逃げ遅れた人を滑らかに背中に乗せて運び出す。
「ピンチに主役集合って、ちゃんと空気読んでくれてるなあ、海」
あんこが端末と白イルカのヒレを交互に見ながら苦笑した。
つづく
ルーシーとカメポンは、シーズン1に出たキャラクターで、突然でビックリしたら、ごめんなさい。
