オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第23話:怖さは息で外に出す
サガール島沖の海の間は、丸い鏡みたいに静かだった。
〈シバ・ゼロ〉がヴァルに教わったとおり、2-1-2の拍で進路を合わせていく。
水面の鏡がふっとゆるみ、船体ごと“海の下のトンネル”へ沈み込んでいく。
ライトマストの合図は、トン、間、トン・トン。
谷で覚えた鈴の10課が、今度は海の底で響いていた。
通り道の壁には、白い石が等間隔で並んでいた。
ヴァルが言っていた目印だ。
外の海は真っ暗なはずなのに、その石だけは月みたいにぼんやり光っている。
「あれが“白い石の列”か」
りうが操舵席で息をひとつ整える。
「通り道ズレたら、岩にゴツン、やからね」
ルナがモニターを見ながら、肩をこわばらせた。
「北センチネル島…」
あんこが画面の端に映る地形を見てつぶやく。
「陸は完全に立ち入り禁止。勝手に近づいた船は、本当に弓矢で追い返される場所。島の人たちは、ずっと前から“外からの侵入”に傷ついてきた側やから」
アンは前甲板から、黒い海の方角をにらむ。
「せやから、うちらも陸には上がらへん。島の人らは島を守る。うちらは、海の底で囚われとる人を助けて、海竜と決着つける。役割、ちゃんと分けよ」
リッチーが尾を振った。
「“やばい島”言うて、怖がって終わりはもったいないもんな。尊敬と距離感、両方セットや」

通り道の先、黒い穴が口を開けていた。
そこから、竜石の青黒い光が、海水を通してじわりと漏れてくる。
「ここから先が、ニーズヘグの“庭”や」
りうが、舵を固定する。
「〈シバ・ゼロ〉はここで待機。ここからは直で行くで」
「準備よし」
ルナが頷く。
「火は線、水は面、息は2-1-2。怖さは息で外に出す」
アンは胸元のチャームを軽く叩いた。
「ママのにおい、たしかに混ざってる。竜石の粉と汗の匂いと一緒に、ちゃんとある。行くで」
つづく
