オーシャン・ドッグスⅡ🐶 第30話:世界中の子どもたちへの“お願い”
龍石の光が消えた洞くつに、静けさが戻ってくる。
代わりに聞こえてきたのは、人のすすり泣く声と、安堵の息。
「アン…?」
アンの母ユズキが、ゆっくりとアンの方へ歩いてきた。
足元はまだふらついているのに、目だけはまっすぐだ。
「ママァ…!」
アンが水を蹴って飛び込む。
ユズキの胸に、勢いよくぶつかる。
水の中なのに、抱きしめられた場所だけが、不思議とあたたかい。
「大きくなったね」
ユズキが笑う。
「世界中の海、駆け回ってきた匂いがする」
「髪、砂だらけや…」
アンがむっとする。
「ママこそ、働き過ぎや。うちが迎えに来るまで、勝手にがんばり過ぎんな言うたやろ」
「ごめんごめん」
ユズキはアンの頭をなでた。
「でも、アンが来てくれるって信じてた」
その横で、モモが叫ぶ。
「アンちゃーん!」
「モモ!」
アンが振り向く。
モモが飛びついてきて、アンの首にぎゅっと抱きついた。

「ヨシタカパパ、リョウコママも…!」
「アン…!」
ヨシタカパパが目をうるませる。
リョウコママは、泣き笑いの顔でアンの頬に手を当てた。
「うちの家族、全員そろったな」
アンが鼻を鳴らす。
「遅れてすまん。ちょっと世界一周してる間に、えらいことなっとってん」
「アンが来てくれるなら、何周でも待つよ」
リョウコママが言う。
「でも、もう拉致られたくはないかな」
ルークがそれを聞いて笑い、りうが肩をすくめる。
「そのへんは、海の長にも“要改善”で報告やな」
その頃、海の上と陸の上では、別のピンチが進行していた。
インド洋周辺の核保有国。
さっきから、衛星の画面には、複数の艦隊とミサイルの準備の映像が映っている。
「ニーズヘグ完全討伐を名目に、核搭載のミサイルを“試したい”という動きがある」
東京の官邸、危機管理室で報告が上がる。
「もし撃てば、島も海も、すべて巻き込まれます」
高杉サチエ総理は、短く息を吸った。
テーブルの端には、小さな赤い円形ピンと、細い金色のリボン状ピン。
彼女のジャケットの左ラペルで、静かに光っている。
「すべての関係国に通達。“海竜への攻撃を名目とした核兵器使用は、人道にも国際法にも反する”とデータを添えて送って。センチネル島の人々がいること、海底でまだカメポン救助が続いていることも、はっきり伝える」
あんこの声が、官邸の回線に入った。
「総理、こちら〈シバ・ゼロ〉のあんこです。
ニーズヘグは、ほぼ動きを封じました。今、海の底で決着をつけています。ここに核なんて落とされたら、島の人も、海の仲間も、全部巻き込みます」
「聞こえています」
サチエが静かに答える。
「あんこさん、世界中の子どもたちへの“お願い”を、あなたたちから発信して」
「了解」
あんこは端末を握り直した。
つづく
