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mm_yamamoto
短編恋愛小説 「ささやかな仕事」
「こんなのお前にしか頼めないよ」
そう言って陸が差し出してきたのは、仕事用のワイシャツだった。
さおりは、内心で「自分でやれよ」と思いながらも、口には出さずにそれを受け取った。
彼女の手は慣れた手つきでシャツを広げ、取れかけているボタンを探した。
陸とはもう長い付き合いだ。しかし、その関係はいつもこの場所でしか成り立たない。
さおりのアパートの一室、静かな夜の訪れとともに、彼の存在が唯一の救いでもあった。
「ここだけの話、他の誰にも頼めないんだよ」と陸は微笑んだ。
その笑顔が好きだった。だから、どんなに小言を言いたくても、結局は彼のために動いてしまう。
針と糸を手に取り、さおりは丁寧に、ゆっくりとボタンをつけ直し始めた。
ボタンを縫いながら、彼女の心は静かに揺れ動いた。
何度もこの部屋で過ごした夜を思い出す。
その度に、自分がただの便利な存在でしかないのではないかという不安が胸を締め付ける。
陸の言葉一つで心が浮き沈みする自分に、苛立ちを覚えることもあった。
私は陸の左手をちらりと見た。指に跡が残っている。
それを見るたびに、彼が隠していることに気づかされる。私は知っていた。
でも、彼にそれを問いただすことはしない。問いただせば、この関係が終わってしまう気がしたから。
「陸…」とさおりが言った時、陸は微笑んで頷いた。
心の中では何かが欠けている気がしたが、その笑顔にまた引き寄せられてしまう自分がいた。
部屋の静けさが、夜の長さを一層引き立てている。
窓の外には、いつも通りの夜景が広がっていた。
さおりはその景色をぼんやりと見つめ、心の奥底で何かが揺れ動いているのを感じていた。

