『機械の中の灯』第4話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
「イオ、これ使えそうじゃない?」
「イオもこれが適当であると判断します」
翌日、アミはゴミ山に水を入れられる大きな容器を探しに来た。ゴミ山を一通り見て回り、奇跡的に真っ白で綺麗な一般家庭用の浴槽を見つけたのである。これならば二百五十リットルほどの水が入れられるとイオが教えてくれた。
そうしてそれをゴミ山から引っ張り出そうとしてアミは困惑する。
「重ッ!」
「アミ様、この浴槽は二十五キログラムを超えるとイオは見積もります。台車を持ってまた来ましょう」
「大丈夫大丈夫! あたしに任せて! これくらい余裕余裕!」
そうしてイオの入ったリュックサックをお腹側に抱え、浴槽を背負う。そうして水の浄化施設を建てる予定の川に沿って、川岸を上流に向かってゆっくり歩き出した。最初の二十分は良かった。だが、三十分、四十分、五十分と経過するごとに足取りは重く、おぼつかなくなっていく。
そうして遂にアミは浴槽に潰されて転んでしまった。
「忍法カタツムリの術……なんちて……」
アミは軽い冗談などを言うが、割と困っていた。
「アミ様、今からでも遅くはありません。一旦ここに浴槽を置いて、誰かに手を貸して貰うか台車を持って来ましょう」
イオがアミにそう提案する。
しかしアミは首を横に振る。
「こんな道の真ん中に綺麗な物置いて離れたら、誰かに盗られちゃう……」
アミは力を振り絞って浴槽を背負って歩き出す。
「アミ様……。では休憩を取りつつ頑張りましょう」
イオは手伝えなくて申し訳ないと呟きつつ、アミに助言する。結局、アミはすぐに疲れ果て、完全に動けなくなって休憩を取る。
アミが道端に座り込んでぐったりしていると、遠くから見知った顔の子供達が現れた。それは塾で共に勉学をする六人の仲間達であった。
「アミお姉ちゃん! 大丈夫?」
ユウナが先陣を切って、アミに駆け寄る。
「ユウナちゃん、それに皆……。どうしてここに?」
「昨日塾でお姉ちゃんが何か新しいことに挑戦するって言っていたでしょ? それで今日の勉強の時間を過ぎてもお姉ちゃんもイオ先生もいないし、どうなったかなぁって私達、心配で見に来たの!」
そうして二番手のハルがアミの手を取る。
「アミ姉ちゃん、イオ先生、僕達お手伝いして良い?」
「ハル君の気持ちは嬉しいけど……。この浴槽、とっても重いし大変――――」
アミは年下のハルに気迫のこもった視線を向けられる。そんなハルにアミが言葉に窮していると、イオが二人の会話に遮って入る。
「是非、手を貸して頂きたいとイオは懇願します」
「イ……イオ?」
今のあたしってひょっとしてかなり格好悪いのではとアミは思った。
そんなことを考えている間に六人の全員が浴槽を持って川の上流に向かって歩いて行ってくれている。そうして全員でわっしょいわっしょいの掛け声と共に歩き出し、ゆっくりと数時間かけて目的地の川の上流の林の中に着く。
「実はあと一個、浴槽を運びたいんだよね!」
アミがそう話すと六人が一様に渋い顔した。
それからはまず午前を商店街のミナコの家で塾を開いて勉強をする時間に充て、午後から日が暮れるまでを川の上流の林で浄化施設を作る時間に充てる日々が続いた。
工事はそんなに難しいものではなかった。
イオが自作の緩速ろ過の説明をする。
「まず川の水が流入槽となる浴槽に入るように流入管を設置します。ここでゴミよけネットを使って大きな異物は入らないようにします。そこから水はバケツの粗ろ過槽、つまりはアミ様が売っているフィルターと同じような効果の槽を二つ通ってある程度浄化され、バケツの砂ろ過槽へ入ります。そこの砂ろ過槽で微生物の浄化を受け、綺麗な水が貯水槽となる二つ目の浴槽へと入って終わりです」
アミはゴミ山と雑貨屋で仕入れた物資と道具を、塾生六人の全員に配ってそのまま作業してもらった。
まずネジ付きソケットでバケツや浴槽に穴を開け、コーキングを施して水漏れを防ぐ。その後、緩速ろ過の順序通りにバケツと浴槽を塩ビパイプで繋いで大体完成だった。
後は水の量を調整するようなバルブを要所要所に入れていく。そして実際に水を通し、浴槽やバケツの中の水が重力に沿って順々に流れるように前もって準備した台座に載せて高さを調節して配置していく。
水が上手く流れることを確認する。そして緩速ろ過のための砂利等を集め、バケツに敷き詰めた。
それから四日が経過した。
「後は全体を保護する小屋を建てるだけだから基本的に工事は完了です。しばらく様子を見て上手く浄化出来てそうならミナコさんの出資でお水を水質検査に出します。結果を楽しみにして待っていてね。皆本当にありがとう! お疲れ様でした!」
アミは塾での勉強会が終わった後、手伝ってくれた六人の子供達にお礼を言ってその場でなけなしのお金を六人の駄賃として渡した。そうして解散を宣言し、賑やかな時間が終わりを告げる。
アミは塾を開校しているバラック小屋のミナコの家からすぐ上階にある自分の家へと帰る。部屋の真ん中を占領しているちゃぶ台を片付け、布団を敷いて床に就く。
アミの四畳半の狭い部屋にはスラム街で撮った様々な写真が貼られている。その写真の中でアミはいつも沢山の人の笑顔に囲まれている。それは母を亡くした孤独を少しでも埋めるためであったとアミはこの時気付いた。母ほど身近な人などいる訳がないが、その大きな穴を人数で埋めようとしたのだ。
「皆に迷惑かけちゃったかなぁ……」
静かになった部屋でアミは呟いた。そしてアミは何だか不安になった。疲れているのに眠れない。
「持ちつ持たれつですよ。アミ様」
アミは寝る時、いつもイオを枕の傍に置いている。アミの独り言を聞いていたイオがそう答えた。
自分という人間は誰かを助けてあげることが出来れば嬉しくなる反面、自分から誰かに助けてくれと頼むことは苦手だとアミは痛感した。要するにアミは自分を好いて欲しくて嫌われたくない面倒くさい人間なのだ。
「一人が怖くて沢山の人と関わり合いたいから、皆にうざがられないように八方美人な性格になっちゃったんだなぁ……」
「多くの友人を持つことは良いことだとイオは思います。しかしアミ様は援助することは得意ですが、援助されることは下手っぴなのです。もっと周りに甘えても良いとイオは思います」
「ほほう、お主も中々のことを言う」
アミは自分は一人じゃないし、誰かを頼って良いんだと思うことが出来た。そうやってまた一つ、成長出来た。そしてそのことに気付かせてくれたイオに「ありがとう」と感謝の言葉を述べて眠りに就いた。
