マンション理事、10年やってわかったこと〜62歳の正直な記録〜ところてん
仕方なく、引き受けた。
職種が変わって時間ができた。「あなた、時間あるでしょう」という空気が漂い始めた頃、マンションの理事の話が回ってきた。断る理由もなかった。
1年だけ我慢しよう。
そう思って理事会の初会合に出席した。
【第一章】意外だった。みんな、真剣だった。
正直に言う。理事会なんて、面倒な集まりだと思っていた。
やる気のない人たちが集まって、どうでもいい話を延々とする——そんなイメージしかなかった。
ところが違った。
みなさん、マンションを愛していた。それなりに一生懸命だった。
「このマンションをよくしたい」という気持ちが、それぞれの言葉の端々ににじんでいる。驚いた。そして少し、恥ずかしくなった。
1年だけ我慢しようと思っていた自分が。
【第一章・補】広報を選んだのに、一番手がかかった
最初に配属されたのは広報委員会だった。
マンションには委員会が3つある。保全・企画・広報だ。
広報を選んだのは、正直に言えば一番楽そうだったからだ。拘束時間が少なそうだった。
ところが誤算だった。
広報の仕事は、他の委員会の活動を居住者に伝えること。つまり、よくわかっていない保全や企画の話を、さも理解しているかのように記事にしなければならない。会議に縛られない分、自分で動かなければならない。拘束時間が少ない分、逆に時間を使った。
楽そうを選んだのに、一番手がかかった。
さらに困ったのが、ネタの集め方だった。各委員会から記事のネタを提供してもらうルールがあった。でも守ってくれない方もいる。来るのは締め切り直前の丸投げ。「あとはうまくやっておいて」という資料一枚だけ、なんてこともあった。
全部丸投げ?——そう思いながらも、なんとか形にした。
不安もあった。これでいいのか、伝わっているのか——正解がないまま、ひたすら作り続けた1年だった。
でもそのうち気づいた。ルールが曖昧だから丸投げされるのだ。ならばルールを変えればいい。少しずつブラッシュアップして、記事が書きやすい仕組みに変えていった。1年目の手探りが、2年目の改善につながった。
手探りな1年だったが、一つだけ軸にしたことがある。
5W1H——いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように。
センセーショナルは不要。週刊誌ではない。読ませようとか、受けようとか、そういう気持ちは捨てた。マンションの機関誌として、活動や決まったこと、その趣旨を余すことなく伝える。それだけを徹底した。
えてして「読ませよう」という誘惑に負けそうになる。でもそうはならなかった。
それは先人が残してくれた広報を読んでいたからだと思う。積み重ねられた記録が、軸を教えてくれた。その背骨を貫くことができた——それだけは自信を持って言える。
ただ、一人で全部やっていたわけではない。
最終的なレイアウトを担当してくれる方がいた。原稿を渡すと、イラストや段組みが工夫された記事に仕上げてくれる。発行までもんもんと一人で抱え込む必要がなかった。
マンションにはいろいろなタレントがいる。
世帯数が多ければ多いほど、プロフェッショナルがいる。レイアウトの達人、建築の専門家、法律に詳しい人——普通に暮らしていたら一生知らなかった人たちが、同じ建物に住んでいる。
さすが!私の住んでいるマンションは凄い!
そう思えた瞬間、自然に愛着が湧いてきた。
恵まれていたと思う。そして誇らしかった。
【第二章】知れば知るほど、離れられなくなった。
1年が過ぎた。
気がついたら、また手を挙げていた。
理事の仕事をしていると、否応なく知識がつく。建物の構造、修繕積立金の仕組み、管理会社との関係、設備のメンテナンス——普通に暮らしていたら一生知らなかったことを、次々と知ることになる。
知れば知るほど、「何とかしたい」という気持ちが芽生えてくる。
意気投合できる仲間もできた。ビジョンが近い人、同じ問題意識を持つ人。理事会という場でしか出会えなかった人たちだ。
管理人さんや清掃のスタッフとも顔なじみになった。廊下で声をかけ合う関係になると、マンションライフそのものが豊かになる。困っていること、嬉しかったこと——普段は聞けない話を聞かせてもらえるようになった。
日々、いろんなドラマがある。
理事をやっていなければ、一生知らなかった世界だ。
【第二章】孤独だった。それでも続けた。
広報委員は3人しかいない。理事は全員で12人だから仕方がない。でもたった3人で1年やっていくのか——そんなむなしい感じは正直あった。
3人で作った広報誌が、エレベーター前のゴミ箱に捨てられていた。配ってすぐに捨てるなら、せめて家まで持って帰ってよ——そう思いながらも、また次の号を作り続けた。
そして総会の日。
「初めて知りました」「広報が不十分では?」
月刊誌じゃないのだから、何を期待しているのやら。正直、怒りがこみ上げてきた。読んでいないのはあなたです——とは言えなかったけれど。
お前もやってみろ。
心の中でそう思いながら、2年目も続けることにした。
〜第2弾「2年目、前のめりになった理由」へ続く〜
