透明人間作戦
あたしのお尻には
でっかいデキモノがある
3年くらい前かな
できてることに気づいたのは
透明人間作戦というのをやったんだ
人が鬱陶しくて仕方なかったから
透明人間作戦決行を決めた夜は
暑くて美しい蒼色の夜で
健康のために
トマトジュースを飲んだ
決行から数日後
夜中に目を覚まし
トイレにいった
座った瞬間に違和感があった
振り返ってもいつもどおりの
しろくてつるんとしたトイレだった
よくよく見ると
いつもと違うのは
あたしのお尻のほうだった
右お尻のまんなかに
赤い1センチくらいの
デキモノができていた
赤くて
黒みがかってて
木の実みたいで
さわるととても痛かった
作戦決行を続けていくうちに
それは少しずつ膨らんだ
3年経った今は
かなり大きく育ち
トイレもそっとしかできなくなってきた
ほんとうになんとなくだけど
切除しないほうがいいと思って
そのままにしている
あたしのこころの膿だから
でもあたしは
ほんとうは気づいている
透明人間作戦は
あたしのすべてを救うはずだった
寂しいという感覚がないあたしには
他人という存在は負荷でしかなく
どんなに素晴らしいと思える相手にすら
消耗してしまうことが
理不尽だなって思ってた
だからあの夜
いっそのこと
誰のことも見えないことにしようって
透明人間作戦を決めたんだ
でも
お尻のデキモノと3年過ごすうち
わかってきた
また訪れた
暑くて美しい蒼色の夜
あたしはおふろに入りながら
大きなデキモノをさわる
静かに渾々と星が流れ込むおふろで
あたしの心臓が
もう限界だよ、とあたしに告げる
本当は気づいてた
あたしに寂しさがないわけじゃない
あたしを慕う人が周りにたくさんいても
耐え難いほどに孤独だ
そしてそれは
どんなに愛してる人も拭えないくらい
決定的だ
他人を透明にしたのは
その決定的な寂しさに抗うことを
あきらめたかったから
そんなこと無理なのに
寂しさもあたしの一部なのに
無理に押し込めた寂しさは
なぜかお尻で
赤黒くて痛いデキモノになってしまった
あたしは
泣いた
できものは
弾けた
血が出た
すべてがおわったんだよね
血は流れて
海に還る
おわり
