褒め言葉
街行く人に「あなた素敵ね」とか「その服装いいね」と声をかける海外の動画がある。
褒められた方は、満面の笑みを浮かべとても幸せそうだ。
その動画は評価も高いようだった。
見知らぬ人に、いきなり話しかけたことはない。
さすが海外。気後れせずそんな褒め言葉が出てくるんだから文化の違いを感じざるを得ない。
とはいえ、わたしも一度、デパートの中で声をかけられたことがある。ファッションフロアで、季節のブラウスを見ていた時だった。
荷物の感じから、相手も客であることは間違いない。
「その服可愛いですね」
突然の声かけに驚いたが、たまたま気になって声をかけてきたのだろうと思い、答えることにした。
「そんな、そんな、大したものじゃないですよ」
思わず謙遜した。
「どこで買ったのか教えてください」
わたしと同い年くらいか、もう少し若い。
白いシャツがよく似合う。目鼻立ちのはっきりした女性だった。ハキハキと話し、いかにも仕事ができそうだった。
「そんな感じの服を探しているんですが、同じような服がないんですよ」と、彼女。
わたしと似たような服を探してる?
どこにでも売ってそうだけど。
「これはネットで購入しました」
わたしは、失礼にならないよう丁寧に答えた。
そこでふと疑問に思った。
この人、わたしと正反対の格好をしているのに、この服を着るのだろうか?と。
違和感があった。
こうした勘は割と当たる方だ。
だが、服を探していると言っているし、詳しく教えてあげたほうがいいだろうか。
「実は、こんなセミナーをやっていて、そこで着ようと思っているんです」
んんっ?!話が変わってきたぞ。
「これから一緒に行きませんか?」
宗教かよ!こんな手口を使ってくるのか。
怒らずにはいられなかったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
これ以上聞いていられず、拒否の姿勢を示し、その場を離れた。
動画のような世界は幻想だ。
日本にはそんな世界線はないに等しい。
誠実に答えた言葉だけが空中に漂っていた。
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