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あんずの木

以前住んでいた町に屋台を引いたかき氷屋がいた。
旬の果物や野菜をシロップ状に煮込み、これでもかと盛大に氷にかけてくれる。

初めてその屋台を見つけたのは、暑さが増した昼間、散歩の最中だった。愛想のよい若い店主が、メニューが描いてある黒板を持ってきた。

あんずのかき氷に決めた。
わずかな酸味と熟れた香り、果実の甘さを生かしていた。

その酸味を口に運びながら、そういえば実家の庭にもあんずがあった事を思い出した。庭に植えているだけで、手入れはされていないが毎年律義に実をつけていてくれた。

田舎の一軒家。
ただただ広い庭。母屋と離れがあったが、どちらも古くて驚かれていた。庭には納屋以外何もない。

母屋は蔦をまとって重そうだった。家の裏には覆いかぶさるように茂る椎の木。苔むしたあんずの木が揺れていた。

子供の時はこの家が嫌いだった。
古くて恥ずかしかった。

隣が旅館をやっていた。
佇まいだけ立派な我が家を、旅館と間違えた旅行者がよく訪問してきた。皆お化け屋敷にでも入るような顔をしていた。

「違います、隣ですよ」と親切に案内したにもかかわらず
「よかった」と言われたときの気持ちは何とも言い表せない。

そんな家が解体されることになった。
待ちに待った建て替えだ。

どんな家なの?わたしの部屋は大きい?
浮かれてハウスメーカーの人と話していた。
早く建て替えてくれ、きれいな部屋で寝たいんだ。

あんなに嫌いだった家なのに、解体するときわたしは泣いた。やめて!壊さないでと叫んでいた。

何もかもなくなってしまう。
弟と喧嘩した部屋も、いい匂いがした台所も全部。
重機は容赦なくわたしの家を破壊した。

半日にも及ぶ解体は最後まで見ることができなかった。

なんであんなに嫌っていたのだろう。
あんなに暖かい場所なのに。

大きな柱も、急な階段も、縁側も。
庭も何もなくなった。

あんずの木も処分された。
庭に空いた空洞が寂しかった。

がらんとした更地を見て分かった。
わたしは子供だったんだ。

縁側に吹く風の心地よさなんてわからなかった。
海の見えた二階の窓も。



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