ばあちゃんと私

私は誰が見てもおばあちゃん子と言うぐらいおばあちゃん子でした。
だってばあちゃんの話は面白くて、
ミシンも上手くて、料理も上手。

何より、ばあちゃんの家が好きでした。

ばあちゃんの高さに合わせた台所。1人しか入れないような狭いお風呂。
和室特有の畳の匂い。障子。
登るのが怖い急な階段。

2階から窓を開けると綺麗な雲が見えて。
晴天の日は風が入り込んでくる。
たまに猫が日向ぼっこしてたり、
鳥が止まってたり。

一階の広い部屋。
お正月に親戚が集まるお部屋。
畳まれた机が部屋の角に置いてあって。
反対側の角には線香を立てるところがある。
入って左側の障子の扉を開けると裏庭が見えて。

裏庭に出ると見える景色は一面田んぼ。家なんてなにも見えない。ただ、草が少し残った、裏庭がある。

そんな田舎で花火大会が開かれた時。
綺麗に見える。
真正面からとてつもないほどに綺麗に。
その日はいつも蝉の声しかしない街から人の笑い声が聞こえてきました。

ばあちゃんはこんなにも綺麗な街で暮らしてきたんだ。
そう思うと羨ましくて、もっと話を聞きたいと思う。

だから私は夏休みになるとずっとばあちゃんの家にいる。
友達もいない。何なら同い年の子も、歳の近い子もいない。
それでも楽しい。
田んぼのお仕事の手伝いとか、
たまにトラクターに乗せてくれて、
田んぼに落ちて泥まみれになって。
透き通ってる綺麗な水が流れてる用水路で遊んで。
ばあちゃんの手料理を食べる。
これが当たり前です。
この当たり前が楽しいです。

「ばあちゃん。明日はなにする?」

この質問だけはいつする。
必ず明日の約束ができるから。
ばあちゃんはいつも笑顔で答えます。

「なにしようかねぇ。ナツの好きなことしようね」

私はばあちゃんとするなら何でも好きです。
でも毎年恒例の行事的なものがあったんです。
ばあちゃんの誕生日。

「明日は、ばあちゃんの誕生日だよ」

「今年はなにをくれるの?」

毎年毎年同じ会話。
そして返す言葉も同じ。

「私をあげよう!」

その日はばあちゃんの命令に絶対服従。
逆らったら許されない。
でも、ばあちゃんは命令をしない。
強いて言えば、夏休みは遊びに来てね。ってだけ。
そんな命令しなくても来るのに。


「誕生日おめでとう!ばあちゃん!」

「ありがとうね」

誕生日の日だけはお母さんもお父さんも家に来てばあちゃんを祝う。

ばあちゃんは嬉しそう。楽しそう。
お父さんもお母さんも楽しそう。
それなら4人で暮らせばいいのに。

ばあちゃんはこの家から離れたくないらしい。
思い出がたくさん詰まっているらしい。
でもわかる。こんな綺麗な家手放せない。

ここは仕事場から遠いからここに住むことも難しいらしい。

夏休み以外はなかなか来れない。
ばあちゃん。寂しくないの?

夏休み最終日。
ばあちゃんは笑って見送ってくれる。

「来年も来てね。ナツ」

「来年も来るから美味しいスイカ用意しといてね」

来年も花火大会をやってくれないだろうか。
この寂しい田舎が、少し賑わうだけでばあちゃんは寂しくなくなる気がする。

また、365日待って。ばあちゃんに会える日を数える。
ゴールデンウィークにも会えるからそんな長くはないんだろうけど、気分はもっと長い。



一年経って、夏休みにもう直ぐ入る。
眠くなりながら数学の授業をしていると。

私は先生に呼ばれた。
なにをやらかしたか、考えたけど。なにも思いつかなかった。
先生に言われたのは

「おばあさんが倒れたって。だから帰る準備をして。外で親御さん待ってるから」

ばあちゃんが倒れた。誕生日もう直ぐなのに。
準備は雑に終わらせた。
筆箱と大切そうなプリントを適当に鞄に投げ込み、廊下を走り、お母さんの車に乗った。

「ばあちゃんは!?」

「落ち着いて。ナツがおばあちゃん好きなのは知ってるから。」

「、うん。ごめん。それで、ばあちゃんは」

「もう、長くないって」

そんな。嘘だ。きっとこれは夢だ。ばあちゃんがいなくなるなんてありえない。

「そん、な」

信じたくないけど。お母さんの悲しそうな顔見て、嘘だと思えない。
夢じゃない限りこれはほんとだ。

「病院。すぐ着くから」

「、、うん、」

泣いてました。涙が止まらなかった。

「病室は105号室のお見舞いに」

お母さんが病院の先生に説明する。
その声は掠れていて、目は腫れていて。

「ばあちゃん」

ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。と小刻みに音が鳴る。
ばあちゃんの小さい呼吸音が聞こえる。

「ばあちゃん。もう直ぐ誕生日だね」

ばあちゃんは答えない。答えられない。

「プレゼントは何がいい?」

答えてくれないことで更に悲しくなり、ばあちゃんの手を強く強く握った。

「ばあちゃん。今年のプレゼントは少し早めで、私をあげるよ。」

ばあちゃん。寂しくない?手をしっかり握ってあげる。
強く握り直した時、ばあちゃんの呼吸音が少し大きくなった。

「何か話すんじゃないか」

お父さんとお母さんは泣きながら言う。
隣にいる看護師は何も話さない。そして静かにカーテンを開け、出て行き。カーテンの外で待っていた。

ばあちゃん。の声が聞こえる。
声というか呼吸音というか。
でも確かに何か話していた。

「なぁーうー」

息を吐き出すのと同時に声を出していた。
名前。読んでくれてる。

「ばあちゃん」

泣いていたらばあちゃんの声が聞こえないだろ。
だから泣き止むんだ。

「プレゼントどうする?」

何を言えばいいか分からなかった。

「ぇ、かぉー。なぁつはー。」

私に伝えるために頑張ってる。
笑顔。ナツは。

「私の笑顔は世界一だからね」

ばあちゃんは返事をせず、弱々しい力で私の手を握り返した。

ぴりりりりり、ぴりりりりり。

心電図に書かれている数字がどんどん小さくなっていく。
目、開けないと笑顔は見れないよ。

ぴーーーー。

病室に音が響く。

ただ泣くことしかできなくて、それが悔しかった。

後に医者が来てカーテンを開け、

「私たちの力不足ですいません」

って言ってた。
お母さんとお父さんは泣くのを我慢して医者と話してたのに。
私だけは我慢できてなかった。
ずっと、ずっと。泣き続けていた。

あと一週間で夏休み。

ばあちゃん家行きたいな。


私はいつもより1週間早くばあちゃんの家に行った。

今年の夏休みは1人だった。
ばあちゃん、。
また泣きそうになってる時。
音が鳴った。

ひゅー。どーん。

今年も花火大会するんだ。
花火を1人で見るのは初めてだった。

次々と花火が上がる中
私は花火に負けないくらい大きな声で、ずっと泣いていた。

この広い家も。裏庭も。
どこにもばあちゃんの影はない。

ただ、綺麗に広がる花火が私を1人、照らすだけだった。

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