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【海技士への挑戦】朝3時、暗闇の中の出発。両親への感謝と決意を胸に熊本へ


4月9日、木曜日

私の新しい人生が動き出しました。
朝3時の静寂。
まだ夜の帳が降りたままの部屋で、私は深く息を吸い込みました。
母の運転する車の助手席から眺めた、街灯だけが等間隔に流れていく景色。
そして、幾度もの乗り継ぎを経て辿り着いた熊本の宿。
海技士養成学校への入学を明日に控え、今、この場所へ導いてくれたすべての人への感謝が溢れています。
これは、一人の人間が夢を掴むために踏み出した、最初の一歩の記録です。

静寂の出発|母の送迎と深夜の決意

アラームが鳴る前、緊張からか自然と目が覚めました。
午前3時。
外はまだ深い闇に包まれ、世界が眠っているような静けさです。
4時の出発に合わせ、荷物の最終確認を済ませます。
重いスーツケースには、これからの生活への期待と、それ以上の不安が詰まっていました。
睡眠不足であるはずなのに、母は何も言わず車の鍵を手に取りました。
「こんな時間にごめんね」と言う私に、母は「気をつけて行きなさいよ」と静かに微笑むだけでした。
街灯がまばらな深夜の国道を走る車内、エンジン音だけが心地よく響きます。
駅で車を降りる際、母が最後に言った「体調管理にだけは気をつけて」という言葉。
そのシンプルで力強い願いを胸に刻み、私は暗闇の中、一歩を踏み出しました。

羽田から熊本へ|長い旅路の果てに見えた「新しい居場所」

羽田空港の喧騒は、これから始まる非日常へのプロローグのようでした。
飛行機が高度を上げ、雲を突き抜けて青空が見えた瞬間、ようやく「本当に海の世界へ行くんだ」という実感が込み上げてきました。
熊本空港に降り立つと、そこには少し湿り気を帯びた、春の終わりのような風が吹いていました。不慣れな土地で、バスと電車を乗り継ぐ時間は、自分をリセットするための儀式のようでもありました。
目的地の駅に降り立ち、地図を頼りに歩き続けます。
ようやく見えてきた「宿」の看板。
長い旅路の果てに辿り着いたその場所は、私のこれからの戦いの拠点となる「新しい居場所」でした。

4.5ヶ月の拠点|元船乗りの主人が営む宿での出会い

これから4.5ヶ月間、私がお世話になる宿は、養成学校まで徒歩5分という絶好の立地にあります。
しかし、便利さ以上に私を勇気づけてくれたのは、宿のオーナーとの出会いでした。
オーナーは、かつて荒波を越えてきた「元船乗りのプロ」です。
日焼けした顔に刻まれた深いシワと、包み込むような温かい笑顔。
初めての挨拶で交わした言葉の端々に、船乗りとしての誇りと、後輩を迎える優しさが滲み出していました。
「ここから学校まではすぐだよ。頑張りなさい」
その一言で、肩の力が少し抜けるのを感じました。
買い物に行くには徒歩40分かかるという不便な環境も、海に近いこの場所で自分を磨くための「修行」だと思えば、むしろ清々しい気持ちになれました。

入学式を目前に|独りでは辿り着けなかったこの場所

今、こうして熊本の静かな夜を過ごせているのは、決して私一人の力ではありません。
学費や生活費を貯めるために必死に働かせてくれた派遣会社の皆様、そして何より、この挑戦を「やりたいならやってみなさい」と背中を押してくれた両親。
彼らの支えがなければ、私は今も「いつか海に行きたい」と夢を語るだけの人間だったでしょう。
私一人では叶えられなかったこのチャンス。

明日はついに、入学式です。
この感謝を形にする方法はただ一つ。
4.5ヶ月後、必ず海技士の資格を手にし、プロの船乗りとしての第一歩を刻むことです。
決意を新たに、熊本での最初の一夜を過ごします。

【結びに代えて】

ここまで読んでくださったあなたに、心から感謝いたします。
これは「完璧な誰か」の物語ではなく、試行錯誤を繰り返す一人の人間の、現在進行形の記録です。
第1話から順に読み進めていただくことで、単なるエピソード以上の「物語としての重み」を感じていただけるかもしれません。あなたの「スキ」や「フォロー」が、暗い夜道を照らす灯火のように、この連載を続ける勇気をくれます。その温かな反応のひとつひとつが、私がこの連載を書き続けていくための、何よりの原動力になります。

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