列車は子どもの頃の想いを乗せて走る

窓をドドドと叩いて
風が走る
さっきから降り出した雨は
やがて
激しさを増し
薄紫の空に雷鳴が轟く

列車の座席に座って
車窓を睨むように
見つめ続ける
窓に子どもだったあの日の
想い出が映る気がした



目の前に
一人の老人が立った
列車に空席はなかった
老人は大きな荷物を持っている
少女は俯いた

列車が大きく揺れた
老人も大きく揺れる


少女は声をあげそうになるが
声は口からは出ず
腹の中へと戻っていった

また
列車は揺れた
老人はよろめいた
よろめきながら荷物を床に置いた

少女は一瞬顔を上げる
しかし
また列車の床を見つめた

どうぞ

この一言が言えなかった

やがて
向かいの乗客が立ち上がり
老人に席を譲った

少女はますます俯いた

雨上がりの空は
夕焼けを連れてきた

虹だ

何処かで子供の声がする

しかし
少女が顔を上げることはなかった
自分が嫌いだった
いつも
自分の想いは声にならず
心の中に留まって渦をまいた
いつも
いつも
行動できない

周りの風景を
ちゃんと顔を上げて見たい


トンネルに入った
車窓に映った自分の顔に
もう少女の面影はない

どうぞ
この一言が言えなかった
あの頃の自分はいない

トンネルを拔けて
列車が駅で停まった

幼い子どもを連れた妊婦が
乗り込んでくる
目の前に立った

列車が動き出す
列車は大きく揺れる

どうぞ

すぐに席を立ち
席を譲る

虹だ

雨上がりの空に
自分で見つけた虹は
空に大きく弧を描いていた

虹だ

あの日見られなかった虹だ
やっと
見ることができるようになった

雨上がりの空
風は走り続けている

顔を上げて
風と
列車と
動き始めた私に
見える景色は
少女の頃に見えた景色に
太陽の光を添えている

逢魔が時篠突く雨と風と虹
眩く想いは空を走る









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