マフラーは今も想い出を紡ぎだしている
冬将軍の訪れ
月冴える夜が開け
霜の声をきく
手足の凍えを感じながら
実家の箪笥の引き出しを開けた
その奥から出てきたのは
古びたマフラー
編み目が不揃いで
不恰好で
おまけに
使い古されて
くたくたに伸びきっている
ああ
これは
私が中学生の時に編んで
父親にプレゼントしたものだ
家庭科の時間
編んだマフラーは
あまりに編み目がばらばらだった
出来損ないのマフラーは
なんだか自分みたいだ
そう思った
その頃
私は劣等感の塊だった
不器用で
人付き合いが苦手で
自分の思っていることを
伝えられない
そんな
私が編んだマフラーは
やっぱりかっこ悪くて
私の分身のように思えた
ああ
やっぱりうまくいかない
捨ててしまおうか
どうしようかと悩んだ末に
間近に父の誕生日が
迫っていることに気づいた
あげちゃえ
せっかく編んだし
父なら
まあ、文句は言わずに
受け取ってはくれるだろう
そんな安易な発想だった
渡して
驚いた
子どものように大喜びして
父はすぐに首に巻いた
満面の笑み
「ありがとう。暖かい」
それから
外出するときは
いつも父の首に
巻かれることになったマフラー
べつに
父のために
編んだわけではなかった
心がチクリ
そんな私の心にお構いなしに
マフラーは
父の外出のお供になった
それは
私が結婚して家を出るまで
ずっと続いた
あれから
何十年
まさか
箪笥に残っているとは
父が亡くなったあとの大発見
手に取ると
くたっと丸まった
やっぱり
出来損ないのマフラーだ
「ああ、それ?お父さん大事にしとったよ。新しいマフラーを買ってやっても、全然使わん。そのマフラーばっかし使っとった」
聞こえてきた母の言葉
ぐらっと
見えてる風景が揺らいだ気がした
こんな不恰好なマフラーを
使い続けていたんだ
出来損ないの私を
大事に育ててくれたみたいに
もっといいマフラーを編んで
プレゼントすればよかったな
後悔がちくちく胸を刺す
それでも
仏壇の父の写真は笑っている
まるで
「ありがとう。暖かったよ」
そう言っているように見えた
私も首に巻いてみる
うん
暖かい
見た目は不恰好だけど
ちゃんと暖かい
出来損ないでもいい
不恰好でもいい
ちゃんと人を温めることのできる人になれたらいい
写真の父も笑っている
