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心の奥底に眠る記憶はちょっとしたきっかけで甦る

先生、ごめんなさい。

彼の言葉に私は驚いた。


久しぶりに出会った彼は二十歳になっていた。

何年も前の成人式の二次会に
私は呼ばれていた。

かつての教え子たちがそこには揃っていた。
私は、彼らの中学生という多感な時期に関わっていた。

所謂やんちゃな世代だった。
やんちゃというとちょっと可愛らしく聞こえるが、日々接している身には、そう思えなかった。

私も若かった。指導の仕方にもがき、葛藤し、苦しんでいた。

彼はやんちゃの一番手。やりたい放題。授業には耳も貸さず、他の子の話しかけ、注意するとキレて教室を出ていった。
ガラスを割ったこともある。

どう扱っていいかわからなかった。でも逃げてはいけない。話を何度もするが、中学時代に彼が変わることはなかった。


彼が酒を注ぎにきた。

先生、ごめんなさい。

酔っているのか、泣いている。

先生、ごめんなさい。

その言葉を何度も繰り返す。

僕は先生の授業ちゃんと聞いてなかった。宿題も出してなかった。

そこ?
もっといろいろあったよね?

言葉を飲み込んだ。
彼の記憶の中で
中学生の思い出が久しぶりに甦っている。
それはきっと長い間封印されていたに違いない。
ただ
潜在意識の中に罪悪感はあったんだなぁ。
先生に同級生に迷惑をかけていた自分が甦っているんだなぁ。
そう思うとなんだか可愛らしく思えた。私の中で何か溶け出した気がした。

あの頃
彼が何に対して反抗し、何を訴えていたのか、もっと聞きたかったが、残念ながら、酩酊して寝てしまった。
もう一度
ごめんなさいと呟いて。

ずっと置き去りにされた記憶の切れ端が、何かのきっかけで甦ることがある。
彼は成人式という場で中学時代の仲間の顔を見て、顕在化した。


今教えている子たちの言葉にならない想いは
大人になって消えてしまうのだろうか。
声に出さずに、しまい込む子が今は多い。


いや
たとえ忘れてしまっても、心の奥底に想い降り積もる。

いつか
表に顔を出し、そんなこともあったと懐かしく思う日がくるだろう。
思春期のもどかしさや
迷いや失敗は
長い人生の中では
決して無駄ではない。

その時は
彼とのように
過ぎし日に眠らせた思いの正体を聞けたらいいと思う。

笑って
お酒を酌み交わしながら。





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