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[色彩]を軸に絵を愉しむ/再訪したい[ロスコ・ルーム] -DIC川村記念美術館

 DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)を訪れた。DIC(旧・大日本インキ化学工業)といえば、出版関係者はインクや色指定の際の色見本帳等でお世話になっている会社だ。同社の「総合研究所」に隣り合い、2代目社長の川村勝巳氏のコレクションが展示される美術館を擁する、約3万坪の庭園が広がっている。

美術館外観。建築家・海老原一郎によるデザイン。展示作品と響き合うように、一室ずつ特徴を持たせた展示室も愉しめた
敷地の入口の、飯田善國「動くコスモス」

■[青・緑]を堪能したあと[赤+黒]を観る新鮮さ

 色彩を軸としている美術館ゆえに、展示方法も独特だ。「今見られるコレクション」(9月4日まで)の最初の部屋、101展示室[青 | 緑]には、モネの「睡蓮」とルノワールの「水浴する女」が隣り合う。しかし突然ポロックのコンポジションが現れ、そのあとマリー・ローランサン、はたまたリキテンスタイン、キスリングとくると「えっ」となる。

 しかしここは[青 | 緑]の部屋なのだった。年代別、テーマ別の展示に慣れているけれど、「色彩」で名作を分類するとこうなるのか、というのは新鮮だ。(もちろん、並んだモネとルノワールは、時間をかけて鑑賞させてもらった)。

 そして、青と緑を堪能したあとの、103展示室[赤 + 黒]では、シャガールの「赤い太陽」「ダヴィデ王の夢」。[青 | 緑]に慣れたままで、いきなり反対色の大作を観たときの眼の驚き。動線と配置のみで、色彩のすばらしさを伝える、その表現力に感激した。

館内撮影不可のため、庭園の写真を。美しく手入れされた緑を観ながら美術鑑賞の余韻が味わえる

■ロスコ「シーグラム壁画」

 この美術館を訪れた目的は、マーク・ロスコのシーグラム壁画を鑑賞するためだ。直接のきっかけは、秋元雄史氏の著書で興味を持ったからだ。

『日本列島「現代アート」を旅する』(秋元雄史 著)日本で観られる現代アート作品から、鑑賞しておくべき10点を厳選して解説。個人的に目下謎解き中の、直島「地中美術館」のデ・マリアの作品についても紹介されている

 同書によると、ロスコのシーグラム壁画(全30枚)はもともと、NYの高級レストランの内装のために描かれたものだが、ロスコのほうから契約を破棄した。そのうち7枚がDIC川村記念美術館に渡り、そのほかは、テートモダン、ナショナルギャラリー、個人蔵となっている。

 ロスコはそもそも自作と他のアーティストの作品が同じ場所に展示されるのを拒む。2008年に増築された「ロスコ・ルーム」は、この壁画を観るために設計された空間だ。

「部屋は七角形にデザインされていて、照度を低くした落ち着いた空間で、7点のロスコの絵画のひとつひとつと対面できるように設計されています」同書p46-47

 照明を落とした空間は、洞窟に入るような感覚を覚える。暗いので「7角形の部屋」は意識できないが、部屋であるのに、丸みを帯びたものに包まれるような、ふわりとしたふしぎな感覚がある。

 壁画に囲まれて、わたしがはじめに感じたのは「血」だ。生々しい流血という意味でなく、身体を巡る生きた血液の色。生き物の、あたたかい胎内に取り込まれたような妄想を抱いた。

 空間の中央に置かれた長椅子に座り、すべての角度から壁画を鑑賞した。目が慣れてきても、そもそもがぼんやりとしている絵なので、焦点を合わせずに眺めてもその世界を感じられる。

 シーグラム壁画については、原田マハ氏も、対談形式の著書『現代アートをたのしむ』(原田 マハ 、高橋 瑞木 著)の中で、画集でのみ観ていた「最初は、わからなかった」ものの、「薄暗い空間で四面をロスコ作品で囲まれた、ロスコ・ルームと呼ばれる部屋で見ると、ぞっとするような瞬間が訪れるときがある」と語っている。

『現代アートをたのしむ』(原田 マハ 、高橋 瑞木 著)

■紅色の空間には今一つ没入できず、次回もトライ

 ただ、わたしには、直島の地中美術館に展示されている、モネ「睡蓮」を前にしたときの、時間が飛んでしまうようなふしぎな感覚は訪れなかった。

 その原因は、色かもしれないし、薄暗い空間かもしれない。思えば、白い空間に緑と青が拡張してゆくかのような「睡蓮」に対して、同じく白壁なのだけれどどことなく洞窟のような空間に紅色があふれるロスコ・ルームは、対極の空間だ。あるいはわたしのなかに、閉所に対する恐怖があるのかもしれない。

 そこに興味をそそられたので、少し日数を置き、また同じ道を辿って、自分の変化を観察しようと決めた。

 長い時間を経て部屋を出て、階段を上がって、200展示室[白 | 透明]に入る。ひたすら閉じていく印象のロスコ・ルームに対して、こちらは生きた緑が映える、白壁の、ひたすら開放していく空間だ。

 「今見られるコレクション」はここまでなのだが、エンディングでも山場を見せてもらった感じがして、しばらく放心してしまった。

■企画展「カラーフィールドの海を泳ぐ」


企画展「カラーフィールド色の海を泳ぐ」(9月4日まで)


 企画展「カラーフィールド色の海を泳ぐ」では、カナダの「マーヴィッシュ・コレクション」から約40点、美術館の収蔵品とあわせて約50点が広い空間に気持ちよく展示されている。

 20世紀以降の抽象画について、作家はそもそも理解されることを求めていないので、鑑賞者が感じればいい、という旨の記述を読んだことがあり、その言葉に今も救われている。意図やコンセプトについては思いを馳せるものの、基本は、自分の好悪や心地よさといった感情で満ちてみる、という、リラクゼーションのような時間を過ごした。

■レストラン、庭園だけでも再訪の価値がある

 ほどよく頭を使ったので、庭園を散策し、敷地内のレストランに入った。コース料理に惹かれたが量を考慮して、アラカルトでオーダー。質が非常に高く、しかも値段が驚くほど安い。

恋する豚のテリーヌ1100円、自家製パン100円

 自家用車以外のアクセスは、JRもしくは京成の佐倉駅からの無料送迎バスに乗るか、あるいは、東京駅からの高速バスも1往復している。都内からだとそれなりに時間はかかるが、心地よく過ごせる場所がまた1つ増えた。

美術館正面から、最寄り駅までの無料バスが出ている

 美術館(とくに私設の)を訪れる際、貴重な文化財を所有という形で守り、さらには一般に開放してもらっていることに、心から感謝している。今回も、去り際に、「いい場所、いい時間だったな」と、あたたかな気持ちがこみあげてきた。

 特に「色彩」について、本を読んでも、人の話を聞いても、この日のように実際に色彩別に分類されたアートに浸ってみないと理解できなかった部分があったと思う。自分の中にはない「色彩」という切り口でものごとを観るためにも、再訪したい場所だ。

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