絵本の中を散策すれば-「猪熊弦一郎展 いのくまさん」@丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
少し長めの旅をしていて。

これから順不同でその記録をアップしていくのだけど、
まずは、高松に滞在する際には必ず足を延ばす、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)の話から。

今までも、この美術館について紹介してきたけれど、
今回の展示はまた、一味違った。


絵本のなかに迷い込む
「猪熊弦一郎展 いのくまさん」(-7/6)。
趣旨から読んだほうが楽しいので、まず、どんな展覧会かを。
画家の猪熊弦一郎(1902-1993)を、詩人の谷川俊太郎(1931-2024)が紹介する絵本『いのくまさん』(小学館、2006)。本展では、この絵本につづられた谷川のことばとともに、猪熊の絵画作品をご紹介いたします。
本書は、子どもに猪熊を紹介したいと、当美術館が谷川さんに依頼してできたものです。遠足で子どもたちが美術館に来たときに、みんなで楽しく作品を観てまわるのと同じような体験ができる、子ども向けの本をつくりたい、と段ボール一箱分の資料を送って谷川さんにお願いしました。
一週間後、編集者の市河紀子さんから、谷川さんが受けようと思うとおっしゃっていると連絡をもらい、さらに二週間がたったころ、今度は谷川さんご本人から電話があって、ひとつだけ質問を受けました。これから文章を考えるのかなあと、のんきに構えていたら、なんと翌日、市河さんのところに構成試案が届いたのです。2004年のクリスマスのことでした。
谷川さんの試案には、絵本の見開き順にことばと絵の構成が記されていました。
こどものころからえがすきだったいのくまさん おもしろいえをいっぱいかいた
(幼年時代と老齢になってからのアトリエでの写真・子ども時代の絵などコラージュ)
それは、253文字のひらがなでつづられた、楽しくて美しい詩でした。そして、みごとに猪熊の全体像があらわされていたのです。出版当時、「この絵本をおもいっきり自慢してください」と谷川さんにお願いしたら、次のような回答がきました。
*こんな絵本はMoMAにだって作れないだろう!
本書が出版されてから、猪熊弦一郎は「いのくまさん」と親しみをこめて呼ばれるようになりました。ごく自然に広まったので、ずっと昔からそう呼ばれていたように思われていますが、実はこれ、谷川さんがつけたニックネームなのです。
2007年の当館を皮切りに、この絵本をもとにした「いのくまさん」展が全国各地でこれまで8回開催されました。谷川さんのことばを通して、今も多くの子どもたちが猪熊の絵に出会っています。
*『MIMOCA NEWS 014』(財団法人ミモカ美術振興財団、2006)

展示室=絵本に見立てて
展示会場である展示室B。この空間が、広い広い豪華絵本なのだ。





谷川俊太郎の詩が、こんなふうにリズムをもって展開し、


次に、変化が訪れる。

リズムを持った言葉の数々。

この「転」には迫力があった。
そして、

最後の、ぬりえをしよう、という呼びかけは、


「ご自由にお取りください」の、塗り絵提供につながる。

会場には、猪熊さんが収集した、おもちゃのコレクションも。




設けられた出口によって、絵本の世界と現実がつながる。
観る者は、その両方を、自由に行き来できるのだ。

なんて贅沢な時間なのだろう。
ただ、原画がすばらしいがゆえに
この日は旅の最終日。
電車の時間を気にしながらも、絵本に見立てた広々とした空間を愉しむことができた。

ただひとつだけ。主催者には申し訳ない、と思うことがあった。

本展のアイデアの元である、絵本「いのくまさん」。展覧会を観たのだから、もちろん記念に買って帰るつもりだった。
しかし。目の前には、こんなにすてきな原画があるのだ。


印刷物にした際に失われる情報の多さ――会場で絵本を観てしまったからこそ、それをリアルに突き付けられてしまった。
絵本は買わず、代わりに、作品たちを記憶に焼き付けることにした。


「リアル絵本」は、こんなにもダイナミックで美しいのだから。



