見出し画像

"意図的な無秩序"のなかの秩序 -名和晃平[Sentient](-7/12)@SCAI THE BATHHOUSE

 某日、谷中。



もと銭湯の、そのギャラリーへ

 坂道をのぼり、

 谷中霊園を通り過ぎた先に、そのギャラリーはある。

 もと、銭湯。


名和晃平「Sentient」

 Sentient=「意識・感覚のある」の意。

テクノロジーと生態の変化が加速する現代を背景に、名和晃平は、過去20年間にわたるミクストメディアの実践を通じて、知覚と情報を相互にもたらすオブジェの作用を探求してきてきました。

「PixCell」をはじめとしたシリーズも、人工素材とコード化された記号、デジタルデータと彫刻的フォルムの間で生じる再帰的な交換に目を向け、ファウンド・オブジェの表層を変質させるマテリアルの考察から生まれています。弊廊での3年ぶり6度目となる個展「Sentient」(「意識・感覚のある」の意)では、こうした探求をさらに掘り下げ、名和の実践がもたらす物質的な介入を通じて、オブジェの存在論に新たな問いを投じます。

本展を構成するのは、それぞれ独立した台座に置かれ、複層的な対話を織りなす約20点の彫刻作品です。70年代のブラウン管テレビ、節句を祝う飾り馬、デッサンに使われたギリシャ彫刻の石膏像ーー。

彫刻の素材として立ち並ぶこれらのオブジェは、ネットオークションや地元の蚤の市などから、「移り変わる時代の網目に掬い出された」(名和談)」かのように、それぞれに異なる時代や地域における美の概念をかたどっています。対象は静物にとどまらず、燃焼し続けるロウソクや展示中に週替りで生け替える生け花など、時代を象徴する大量生産品から個人の手が引き立てる様式美まで多岐に渡ります。

作品の表面は、苔や菌糸のような絨毛を付着させた「Velvet」や3Dスキャンなどで得たデジタルデータを元に彫刻化する「Trans」など、名和のこれまでの彫刻シリーズを特徴づける技法が用いられ、それがオブジェの意味を不安定にし、記号としての可読性が揺らいでいきます。

同上


《Cells in the Grotto》

 個展の案内等で、フィーチャーされていたのはこの作品だ。

展示作品の中でも、《Cells in the Grotto》(2025)は解釈の流動性を象徴するうえで際立っています。リゾームに覆われた洞窟のような造形は粘土を乾燥させ粉砕した泥で覆われ、その内部に異なる天然・人工物を封じ込めた大小さまざまなガラス球が置かれています。

フレーク状の雲母、結晶化した鉱物、青くフィルムコーティングしたカブの種、ヒマラヤ岩塩やよもぎなど、多種多様な色彩や形状をもつ要素がカプセル化され、地球環境の危機と複雑に絡み合う生態系を暗示しています。同時に、不調和に見えるオブジェの配置は、神話的・象徴的なイメージを想起させ、コントロールできない外的要因に導かれる集合の特性を浮び上がらせています。

同上


作品配置の意味

 ギャラリーは、壁を取り払った1つの広い空間。

 銭湯時代の面影を、随所に残す。

 そんな空間での作品の置かれかたは、いろいろ考えてみても、なかなか動線が見いだせなかった。

 その理由については、説明も。

目的を失ったオブジェが次々と漂着する名和のスタジオは、ヴァルター・ベンヤミンが「寓話的なパッチワークの散在」*と呼んだ収集のあり方を体現するかのように、直線的な物語や分類を退けながら、意図的な無秩序のもとで増殖し続けています。

名和の実践によってオブジェの記号としての可読性は解体され、異なるマテリアルと技法を加えることでそのフォルムが変容していきます。この組み換え可能なアッサンブラージュにおいて、オブジェはその物性とコード化された意味の狭間をさまよい出ます。

本展では、そうした個々の彫刻の集合を空間に布置することで、既存の価値体系を異化し、予期せぬ視点へと導く関係性の場を開いていきます。
* Benjamin, W. (1999). ‘The Collector.’ In The Arcades Project. Cambridge, MA: Harvard University Press. p. 211.

同上

 つながりがあるように思えて辿れば消え、また別の視点からのつながりが生まれるような。


名和作品と、その広がり

 名和晃平作品。

 舞台もあった。

 カメラや観音像などなど、いろいろなものを覆ってきた「PixCell」シリーズ、をはじめとして、

 いろいろな場所で鑑賞した、名和作品の記憶が蘇ってくる。

 どこに置かれていても、その周囲を、名和作品、っぽくしてしまう。

 これからブログにまとめるけれど、万博会場の入口にも。

 白い空間にクールに配置された、さまざまな作品たち。

 それぞれの作品がこの展示室を飛び出し、いろいろな場所に「名和晃平」らしい雰囲気で周囲を満たしていくのを想像しながら。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集