月明かりの夜に|虹色創作部
電気をつけずに本を読むのが好きだ。 窓際に座って、月の光だけを頼りに文字を追う。 どうして、いつからそうするようになったのかは覚えていない。 習慣と呼ぶにも儚すぎる。
今夜の私の手の中にあるのは、高校時代に買った詩集。ページは少し黄ばんで、角が折れている。 当時の私には難しく、途中で諦めてしまった本だった。
「今は少しわかる気がする」 声に出さずにつぶやく。
あの頃の私は、恋に悩んで、将来に不安を抱いて、毎日が嵐のようだった。この言葉たちのささやきは、そんな私には届かなかったのだろう。
月の光の下で文字を追っていると、昼間の慌ただしさが嘘のようだ。世界は静まり返っている。時間と場所の感覚は、溶け出して、文字と自分の存在と共に曖昧になる。
ページをめくる音だけが、部屋に響いている。
この詩集を買った日の記憶が蘇る。書店で手に取って、表紙の美しさに惹かれた。詩の意味はよく分からなかったけれど、この詩集とそこにあるいくつかの言葉を手元に留めておきたいと思った。
いつか全部を読める日が来るだろうと思っていた。
その「いつか」は、やっと今やってきた。 けれど全てが分かるようになったというわけではない。
月は窓の向こうで静かに輝いている。あの頃もそして明日の夜も、きっと同じようにそこにあるのだろう。
本を閉じて、月を見上げる。
また明日の夜、続きを読もう。月明かりの下で、ゆっくりと。

虹くりっぷ@虹色創作部さんの素敵な企画です。
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