思い出の残り香
お気に入りの服には、独特の温もりがあるような気がする。 それぞれの匂いがするようにも思う。
私は、クローゼットの整理のために、古いセーターを畳みなおしていた。 その袖に顔を近づけた瞬間、私の中に彼が蘇った。
柔軟剤の香りでも香水でもない。体臭でもない。彼の匂い。
二年前の秋、初めて彼が泊まった夜。私がこのセーターを彼に貸したのだった。 朝、着替える時に彼は「いい匂いがする」と言った。
「洗剤?」 「違う。君の匂い」 そう言って彼は、袖に顔を埋めたっけ。
セーターを抱き上げてもう一度嗅いでみる。 違う日の彼を思い出した。
彼はここでこのセーターを着ていた。コーヒーを飲みながら、二人は将来について話していた。 「来年の今頃は」と彼が言いかけた。 「何?」と聞き返す私に、「いや、何でもない」と彼は笑った。
そのあと、彼は転勤で遠くに行った。遠距離恋愛は難しいとの理由で私たちは別れた。そのあとは連絡もない。
セーターを畳み直しながら、彼のことを考える。
仕事が忙しいのか。それとも、私のことはもう忘れてしまったのか。新しい恋人ができたのだろうか。
このセーターには彼との時間が染み付いている。二人で交わした言葉。あの日の午後の匂い。
畳み終えたセーターを奥の方にしまうと、小さなため息とともに、私はクローゼットを閉じた。
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