母の手|風まかせ文芸部
幼稚園を早退した娘の髪を撫でていて、思い出した。
小さな頃、熱を出して寝込んでいると、母はいつもこんな風に私の髪を撫でてくれた。
額に手をあて熱を確かめてから、優しく髪を撫でる。その手は少し冷たくて、とても心地よかった。
今、私は娘に同じようにしている。
母は五年前に亡くなった。娘は母に会ったことがない。
けれど私は無意識のうちにこうして母の手の記憶を娘に伝えている。
自分の手や指の形は母に似ているとこの頃思う。
自分の手が、母の手のように思えて懐かしむことすらある。
食事の支度をしている時も、そうだ。
味噌汁の味を確かめる仕草、野菜を切る時の手つき、冷蔵庫から食材を取り出す順番。
ふと気づくとそれは母がしていたことだ。
母の温もり、手の感触、声の調子。そういうものが、私の中に生きている。
「お嬢ちゃんはママにそっくりだね」
「娘さんの目元はお母さん似ですね」
周囲の人が娘にかけてくれる言葉。それは私が昔聞いたものと同じだ。
転んで膝を擦りむいた痛みを娘がこらえているとき、無邪気に私に笑いかけてくれる時、そこに母の面影を見ることもある。
粘土遊びをしている幼い娘の動作や指の形もどことなく母に似ている。
気づかないうちに脈々と伝わっているものがある。
娘の髪を撫でながら、願う。私の母の手が、母の愛が私を通して娘に届いていることを。
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